第5話 元カノは魔法使い
「・・・なるほど。キューに出会ったのは本当についさっきで、なぜ捕まえようとしたかは言われなかったんだね」
「ああ。もう、本当に何が何だがわからない。その封筒も、あの化物も、柊が来てくれたのも」
今まで俺の身に何があったのか簡潔に柊に話す。
何故襲われたのかはわからないそれを踏まえた上で事実そのものを柊に語る。
正気になったら、バカバカしくて話をする気にもなれないかもしれない。けど、未だにん手の震えが止まらないのはさっき起きたことが現実に起きたことを表しているから。
謎の手紙が入っていた封筒ももちろん渡した。
キューが手紙に言及していた以上、何か仕掛けがあったりするかもしれないと思った。
柊がそれを手にしているが、特に何か起きるわけでもない。
突如現れ、頭の追いつかない不可思議な現象を発動させた元カノに、
意外と冷静に事の顛末を伝えられている。
話すとは言っても、キューとは本当にさっき会ったばかりで突然説明もなしに連行されそうになっただけで、俺はそこから逃げようとしただけなので数分で説明は終わった。
「そういえば、キューって男に追い詰められた時、頭の中で柊の声がしたんだけど」
「ちゃんと届いていたんだ。あのままだと助けるのに間に合わないと思って声を直接届けようと試みたの。うまく行ったようで良かった」
「届けたって・・・なあ、さっきの閃光?みたいなのもそうなんだがあれって・・・」
「・・・隠せないよね。さっきキューも私のことああやって言ってたし」
少し、彼女の声のトーンが下がったのは気のせいだろうか。
表情はあいも変わらず無表情で、何を考えているのかはわからない。
肩のタトゥーを触りながら、彼女は淡々と話す。
「私はいわゆる魔女。魔法使いなの」
「・・・」
「この肩のタトゥーも魔法使いである証。頭に声を響かせたのも、閃光を放ったのも、人払いの結界が地下鉄にされていたのも、キューが突如消えたのも、すべて魔法の類なの」
「・・・そうか。そう、だよな」
彼女の口から直接聞いた、科学とは相反する言葉はするりと体のうちに入っていった。思わず笑みまでこぼれてしまう。
キューという男が口にした魔女という言葉は、何かの比喩とかでもなく本当に魔女だっていうことだ。それに、あの男自体も魔法を扱える特異な存在ということも。
「意外と驚かないんだ」
「あんなに不思議なもの見せられて、未だ信じられないとは言えないよ。それとも、俺が見ているのは夢なのか?」
夢だったらどれほど良いんだろうな、なんて自分のいった発言に突っ込む。
未だ落ち着かない呼吸音と冷や汗が現実のものだと実感させる。
ただ、成長した柊と再会しているのは未だ夢なんじゃないかとも思ってしまう。
「で・・・そんな魔法を行使できる人たちが、どうして寄ってたかって俺に近寄ってきたんだ。俺は何か悪いことをしたのかを、柊は知っているのか?」
やっと、本題に入ることができる。
本当は最初に聞きたかったけれど、魔女だとかそういう説明なしにいきなり聞いても俺は理解することが出来ないに違いない。
今も本当は理解なんてできていないけれど。
「・・・この封筒の中身の内容を見て」
「え?でもこの中身には何も書いてなんていなかったぞ」
「そうね、一般人が見たら何も書かれていないように見える。もしかしてキューはハルカが一般人だということを知らなかったのかもしれない」
一般人。
柊から口に出された言葉は全くもってその通りだ。
その通りなのに・・・俺に深く言葉がのしかかる。
柊のそばにいて、何度も浴びせられた言葉。
誰をも魅了する彼女のそばにいるのが俺みたいなやつなんだからそれは自然と口に出てしまうのかもしれない。
「・・・」
封筒から紙を広げて俺に見えるように見せてくる。
彼女の匂いが否が応でもわかる。
付き合っていた当時はそんな言葉も最初は気にも留めないくらい彼女に夢中だったっけな。
「この手紙に魔法をかけると・・・ほら、文字が浮かんでくるの」
柊が手紙に手をかざすと、ジワリと文字がにじみ出てきた。
炙り出しみたいだけど、文字がどういう原理か紅く輝いているから、これも魔法の一種なんだ。
「・・・筆記体はよく読めない。日本語で送ってくれよな、全く」
「今から訳す・・・ちょっとまってて」
読めるのか。
本当に超人だな、この人は。
「熊谷遥。特異なる魔を秘めるその身体、我ら魔法のさらなる発展を目指す魔法研究会で実験させて欲しい。本日の夜、特使がお迎えに上がります・・・みたいな内容が懇切丁寧に書かれてる」
「・・・は?」
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