第11話 魔法研究会
ぱしっ
「うお!?」
再び俺の手を握ってきたかと思えば、力強く自分の側へと引っ張った。
引っ張られた反動で前のめりになり、柊にぶつかりそうになる。
「い、いきなりな・・・んだ!?」
ボタンっ!
泥が降ってきたと、最初は思った。
夕焼けが映える空に雲は見えない。
雨でも無ければ木々から舞い落ちた葉っぱの類でもない。茶色く、固形の球がさっきまで俺のいたところに降り落ちた。
明らかに・・・俺に目掛けて落ちてきた。
「ハルカは動かないでいて」
冷静な声で柊は俺を引き寄せる。
柊は片方の手で俺を至近距離まで近づけて、もう片方の手を太陽に透かすようにあげた。
すると・・・柊を中心に薄青いベールのようなものが俺らを囲い出した。
魔法だ・・・。
一週間ぶりに見た、科学じゃ説明できない謎の力。
それを、ためらう事なく柊が目の前で使用した。
ゲームやファンタジーの世界でよく見る、障壁、バリアのようなものか?
ボタッ、ボタボタッ、ドサッザッザザザザ
かなりの質量を感じる音が俺の元いたところ、そして、柊の元へ落っこちてくる。
だいたい15cmはある、黒く謎に満ちた物体。
「あれに触れたら危ないから・・・」
言われなくてもわかるが、あれに触れたらただ気色の悪い、で済みそうにないことは分かった。
ベールに触れた謎の物体は俺らの元へ貫通することなくベールの表面で跳ね除けられる。
べちゃり、っと、耳に残る音が鼓膜から離れない。
魔法?攻撃されているのか?
いつの間にか鼓動がひどく高鳴っていることに気づいた。命の危機を今更ながらに感じる。
誰かが、俺らを狙っているとはっきりと感じた。
入り組んだ裏路地の周辺を見渡す限り他に人はいなかったが、垣根やマンション、家へと半径20mほどにそれらは上から降ってきた。
垣根、屋根、コンクリートへと、それらは落っこちてきた。かなりの重さがあると思ったが、衝撃で何かを壊す様子は確認できなかった。
空からの謎の物体の落下が止まったため、柊も上げていた手を下ろす。
スッと、青白いベールも消えた。
今更構造や仕組みを理解できるなんて思っていないが、どうなっているのだろうか。
そんなことより・・・
「何だ、こいつらは・・・」
さっきまで俺のいたところの地面に・・・何かが蠢いている。
黒く、濁ったような色の何かが動いている。
「う・・・」
「見ないほうが良い。私でもあまり見たくない・・・」
直視しようにも、体が見たくないと受け付けない。
まるで虫だ。いや、虫なのか・・・?
「その子達はエバックローチ。複眼生物で、近くで見ると無尽蔵に動く無数の眼がとても可愛いんだ。あと、集団での狩りが得意でね、じわじわと敵を追い詰めていく様子は本当に恐ろしくて素敵なんだあ」
「!」
「・・・正体を現しなさい」
柊が凍てつくような冷たい声を、俺らが来た方向の路地に向かって告げる。
静かに、だが、確実に殺気を孕んでいた。
柊が俺とつないだ手の力を、意識的か、無意識的か強めている。
「やあ、もっとすごい魔法を見れると思ったのに、ただ障壁で防ぐのかあ」
陰の差した路地から、ゆったりとした足音と共に若いハスキーな声が聞こえてくる。
世間話のように喋る口調なのに、冷や汗が止まらない。
「ボクの召喚した蟲達なら、それくらいの魔法で十分ってこと?さっすが、本物の魔女っていうのはすごいんだねぇ」
その子は左手に鳥籠を持っていた。
肌の白い、とても中性的な顔をしていた。
地面に落ちていた謎の蠢く物体・・・エバックローチとやらが、声の主人の足元へと集合していった。
「魔法研究会の者?」
「そう!ボクの名前はチリン。本部は待機命令を出してるけど・・・来ちゃった!」
屈託のない笑顔で、チリンは俺らに言い放った。
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