第10話 魔法使いとは

見知った街の風景から一変し、別世界と思えるほど知らない道を不安になりながらも歩く。


大学へつながる大通りから外れた路地のまたその先、酒場や風俗が立ち並ぶエリアを抜けた裏路地は車が一台通れる程度の細く狭い道だった。

人通りは一気になくなり、時折すれ違う住民であろう人たちはこちらを見向きもせずに通り過ぎる。

柊は迷いなく突き進む。目的地には来たことがあったのだろうか。


「まだ、ハルカに魔法使いがどういう存在が伝えていなかったね」


右へ左へ、既に帰り方がわからなくなるくらいに進んでいた時に唐突に柊が呟いた。


「確かに、あれだけのものを見せられて魔女ということには納得していたが、俺の思う絵本やファンタジー作品に出てくる想像通りの魔法使いと相違があるものなのか?」


「ハルカの思う魔法使いがどういうものかはわからないけど、きっと、魔法を操る人と考えているでしょう」


「ああ、そうだな」


「とりあえずはその認識で問題ないわ。伝えたいのは、魔法使いの生態?とでも言えば良いのかな。それと、魔法研究会のこと」


魔法研究会。

あの手紙に書かれていたキューの所属しているだろう正体不明の団体。


『特異なる魔を秘めるその身体、我ら魔法のさらなる発展を目指す魔法研究会で実験させて欲しい』


どうしてか俺の体に大量の魔力が蓄えられていることをいち早く発見し、キューを派遣して捕らえようとしていた。

俺を捉えて、その後どうするつもりなんだ。


「まず、キュー達魔法研究会がハルカの力を欲しているのは、より強い魔法使いになるため」


「より強い?一体どうして」


青白い光を帯びた腕で俺を拘束した際、どれだけ抵抗してもキューは微塵も動かなかった。

そして、柊と相対したとき、彼女の放った閃光の魔法を浴びても余裕げな表情をみせ、そして時空を歪ませるかのように消えた。

俺の生きてきた中で身につけた常識を悉く覆した、あまりに未知で恐ろしく強く感じたキューのような人間がさらに強くなろうとしているのか?


「彼らが魔法使いとして強くないから」


きっぱりと、柊は言いのけた。

それはつまり柊は魔法使いとして強い部類に立っていることを意味しかねないが、柊の言葉には自分への自信というより、当然という意味合いが込められているように感じた。


「あのキューって男はとても強く見えたが」


「・・・確かに、キューは魔法使いとして強い。強くなった、と言った方が良いのかもしれない。元々はあんな魔力と魔法を扱えるような魔法使いではなかったって聞いたことがある」


「と言うことは、魔法研究会に所属してから?」


「そう。魔力が少ない、初歩的な魔法しか行使できない魔法使いが束になって作り上げ、強くなるために設立したのが魔法研究会で、キューはそこで強くなった・・・らしいわ」


柊自身もキューとはあの日が初対面であったと言っていた。


「その情報はどこからだ?」


「私を手助けしてくれる、商売人の魔法使いから聞いた。情報の信憑性はわからないけど、私に嘘をつくメリットもないからきっと本当」


「・・・どうして魔法使いとして強くなりたいんだ?」


「人間と一緒よ」


体を向けて、柊が俺と向き合う。

夕焼けが彼女の服を染めている。オレンジ色に輝く姿はより一層彼女を幻想的に見せ、自分と交わることのないヒトだと思わせてしまう。


「より地位ある仕事に就きたい。力が欲しい。お金が欲しい。幸せになりたい。そう言った人間の欲望のようなものが魔法使いにもあるの。・・・欲望というより、魔法使いである場合の義務のようなものがね」


「義務・・・」


柊の反射して輝いた目には・・・なぜだかわからないが、どこか諦めているかのような感情が込められているように見えた。

魔法使いという存在が何を欲し、何にために強くなろうとするのかわからない。

矮小な頭をひたすらに回転させても、魔の王を倒す、だったり、世界を征服する、だったり、ファンタジーにも程が有ることしか思いつかない。

いや、もしかしたら実際はそのような答えが待っているのかもしれないな。


「義務っていうのは一体・・・」


「それは・・・、!、下がって!」


それは一瞬の出来事だった。


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