第57話 ギルガメシュは可愛がりたい

「さて、リンの説明も終わったし、今日はもう寝るか」


 ラエンがあくびをしながらベッドに向かう。


「そうだリンの寝床はどうしましょうか?」


 それにラエンが眉を寄せる。


「なんども言っているが泥人形に睡眠も必要ない、だからそこに座らせておけば──」


 ラエンが最後まで言い終わらないうちに、ギルガメシュがリンを持ち上げて。


「じゃあ、あっしの家で寝かせても構いませんね」

「いや、だから、泥人形は──」


 ギルガメシュが軽べつするような視線を向けてくる。ラエンが困ったように頭を掻く。


「わかった、じゃあ今日は俺と一緒に」

「ラエン様と宰相様は今度悪魔族の領地に行ってしまわれるのですよね。なら、今からあっしの家にお泊りできるよう訓練が必要だと思います」


 訓練もなにも、寝かせる必要がないといっているのに、この牛魔族は本当に全然話を聞こうとしない。まあそれは魔族全員に言えることなのだが。


「だが、そんな明らかに人型の子供を、お前が連れて歩いていたらおかしいだろ」


 イライラしながらラエンが言う。

 ギルガメシュがウッと言葉に詰まる。その時”キュ”とリンが鳴いた。

 するとその姿が見る見る牛魔族とそっくりに変化へんげした。


「キュ!」


 金色の瞳とツノはそのままだが、見た目は完全な白黒の牛魔族になっている。


「リン!! なんて可愛い姿なんだ」


 ギルガメシュが、そのあまりの愛らしさにリンをギュッと抱きしめる。


「こいつ変身能力もあるのか」


 高位の人型魔族は、もとの魔族の姿に変化することができる。だからリンの場合、毛が付着した牛魔族にもなれたのだろう。


「これなら大丈夫ですね」

「いや、家族にはどう説明するんだ」

「…………友達の子を預かった?」

「無理があるだろ」

「家族にも言ってはダメなんですか、ウルクじいちゃんはラエン様の世話係を長年してきた者ですし、うちの家族はみな口が堅いですから大丈夫ですよ」


 こんなに可愛い子を一匹で、魔王城に置いていくなどありえない。ギルガメシュが力説する。


「キュー」


 金色の瞳がウルウルとラエンを見詰める。そんな目で見られてはラエンもダメだと強く言えなくなってしまう。


「宰相様もいいですよね」

「私は別に構わないが、緊急事態が発生した時ギルが近くにいた方が連絡が付きやすいだろうし」


 ラエンはなにやら複雑な表情をしながらそれを承諾した。


「リンはあくまで泥人形だぞ、リーレンとも記憶が繋がっているんだ。変なことはするんじゃないぞ」

「何をいっているんです、いじめるわけないじゃないですか、こんなに可愛いのに」


 キャキャと高い高いされてリンが楽しげな声をあげている。


「そうだ、お風呂とかいれたら、溶けたりしないですよね」


 ギルガメシュの質問に、”泥人形”だという認識があったらしいと逆に驚く。


「…………大丈夫だ、核であるリーレンのツノが破壊されたり、抜き取られない限り、形が崩れることはない」

「そうですか」

「小さな怪我は自動的に修復されるし、たとえ腕がもげても、そこに魔力を注ぎ込めばくっつく。ただしどんなに食事を与えても、成長することはないぞ」

「怪我なんてさせませんよ」


 リンを抱えながらギルガメシュがこたえる。

 なんだか別の意味でリンを置いていくのが不安になる。


「ギルガメシュ、もう一度言うがリンは泥人形だ。記憶もリーレンと共有してる。変に甘やかすんじゃないぞ」


 たぶんそう言ったところで聞かないのだろうと思いつつ、再三警告をするラエンだった。

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