第56話 リンお披露目

(なにこの可愛い生物は)


 クッキーの第一印象はこうだった。

 顔の真ん中から別れた黒と白のツートンカラーの髪は、まるで絹糸のようにサラサラで、そこから覗く金色の瞳もまるで宝石のように輝いている。

 人型にもかかわらず、この母性本能をくすぐる可愛さはなんなのだろう。

 ラエンを初めて見た時も、綺麗で美しいと思ったが、これは儚く美しく守ってあげたくなる可愛さだった。


☆──☆


(子供だ。これは絶対お二人のお子さんだ)


 ショコラはすでに陥落していた。


(どっからどうみても逃れようのない生き証拠じゃないですか!?)


 目の色やツノの形は宰相、しかしその髪の色は白と黒。


(絶対ギルガメシュ様の毛色受け継いでますよね)


 唇を噛みきらんばかりに食いしばる。妄想を通り越し爆死しそうである。


(それになんなんですか、この反則級の可愛さは)


 半分獣系が混じっているせいなのだろうか、見た目は人型にもかかわらず、認識できてしまうこの可愛さ。


 ショコラはすでに昇天一歩手前であった。


☆──☆


(手遅れだった)


 ティラミスは顔面蒼白であった。

 自分だけが悪魔族ラエンのたくらみに気が付いていながら、何もすることができなかった。

 ラエンは宰相をこの魔王城から連れ出し、そしてここを乗っ取るつもりに違いないのだ。

 そしてこの目の前の儚げで美しく、最高に可愛い生き物はラエンに代わり、魔王城に残った魔族たちを魅了していくに違いない。


 いまも抗いがたい衝動を抑えるの精一杯であった。少しでも油断したら、頭をなぜくりまわし、高い高いをし、美味しいお菓子を思う存分食べさせて甘やかして尽くしたい衝動とティラミスは戦っていた。


(悪魔族、なんて恐ろしの、ここまで精神攻撃をしかけてくるなんて)


 でもいまそれを耐えるしかない。そして逆転のチャンスをうかがうのだ。

 ティラミスは少しでも誘惑にあがらうため、目の前の子供から目をそらした。


☆──☆


「───というわけですから。リンを私だと思って、いままで通り仕事を回してください」


 リーレンが眉を寄せる。

 果たして理解できたのだろうか。”リン”は仕事を代わりにやってくれる泥人形だと説明したのだが、秘書官三匹は、みな心ここにあらずという感じで、わかったようにはとてもみえなかった。


 クッキーは頬を赤らめながらポーとした顔でリンを眺めているし、ショコラは、いつものごとくすごい眼力でリンを凝視したかと思うと、今にも卒倒しそうなほどフラフラし始めている。

 そしてティラミスは、両手で自分を抱きしめるようなポーズをしたまま先ほどから俯き加減で気持ち震えているようだった。


 秘書課で風邪でも流行っているのだろうかと心配になる。


「一週間に一度は記憶をリンクさせるので、わからないことがあればそれまでにまとめといてください」


 それでもすぐに出発するわけではないので、どうにかなるだろう。何事もやってくうちに覚えていくものだしな。とリーレンは考えた。

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