第20話 魔王様のツノ

 宰相はやさしく魔王の体を拭く。

 そして魔王の太くて固い立派なそれを手で包むように持つと優しく丁寧にこすった。


「……あっ……」


 思わず魔王が吐息をもらす。


 ギルガメッシュもそれを見ながら自分のそれを思わす掴んだ。


「あの宰相様、魔王様は鬼魔族が進化した魔族なんですよね?」


「そうだ」

「鬼魔族のツノはだいたい三角錐でおでこから頭のてっぴんに対して一本か、または耳の少し上から頭のてっぺんにかけて二本がほとんどですが、魔王様のそれは」


 そういうと、宰相が一生懸命拭き拭きしている魔王のツノを指さす。

 耳から斜め後方からまるで羊魔族のツノを裏返してつけてしまったような変わった形をしたツノ。


 多種族間で夫婦の契を交わした場合その子供は父方か母方どちらか上位の種族の姿になる。

 それでもたまに二人の因子を受け継いだキメラが生れてくることがあるのだが。

 魔王は父である前魔王で鬼神族の特徴を色濃く受け継いでいたが、ツノだけは母親である悪魔族のような形をしていた。


 ツノを持つ魔族にとってツノはその種族の象徴とも言える。

 だからツノの形が違うことはキメラの中でもとても異端だった。


 だがもともと鬼神族自体とても少数。宰相でさえ前魔王を含め会ったことのある鬼神は数えられる程しかいない。

 長命すぎるため子孫を残そうという考えも薄く、不慮の事故で死んでしまっていたらすでに……

 まあ鬼魔族が超進化して新たに増えている可能性もないとは言い切れないが、人間との戦争が休戦している今なかなかそれはあり得ない話だろう。


「魔王様ですからね、格好いいでしょ」

「へぇ」


 鬼神族とはそういうものなのかと納得したようなしないようなギルガメシュに、宰相はニコリとほほ笑んだ。

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