第4話 仕事ですよ宰相様

「宰相様、今日の分の陳情書です」


 扉を開けた途端、見えない壁に阻まれた犬魔族の秘書官が、勢い余って後ろにしりもちをつく。


「宰相様?」

「あぁ、今度からこの部屋は立ち入り禁止にした」

「えっ、でもそしたら」


 倒れた拍子に散らばった宰相宛の書類を拾いながらクーンと鳴く。


 魔王の意識が戻ってから宰相はほとんど魔王の寝室に入り浸っている、はじめこそ魔王の体をぬぐう数時間だけだったのに、日が経つにしたがいその時間は伸び、本来の宰相の仕事が進まないと泣きついた、その結果、宰相の仕事部屋が魔王の寝室の一角に移動されたのだ。

 まあそこまではそれでもよいのだが、たまった書類を宰相のもとに運んできたものの、扉から中にはいれないのでは、いちいち宰相を呼びださなくてはならない。


「宰相様、さすがにこれは不便です」

「うむ」


 何回目かのやり取りの後、宰相も思うところがあるのだろう。

 

「仕方ない」


 パチリと指を鳴らす。

 さっきまで扉をあけてすぐのところにあった見えない障壁がなくなり、秘書官が中にはいれるようになった。


「よかった」


 ほっとしたようにそういった。


「だが、魔王様のベッドに近づくことは禁止だぞ、とくに魔王様を一目見ようなんてことは夢にも思わないように」

「は、はい思いません」


 秘書官がビクリと体を震わせて身を縮こませて頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る