44話 圧
「あ、あれは……」
「な、なんなんだい、ありゃ……」
「か、神よっ……!」
教会の入り口付近で俺たちが目にしていたのは、異形の人間の群れが空を舞っているという異様な光景だった……。
背中に翼が生えているから、一見するとただの鳥系モンスターのように見えるが、迫って来るにつれて違うとわかる。
モヒカンヘアーの頭部から胴体にかけては人間そのもので、腕と足が逆になっていて、それらの爪先はいずれも鳥の鉤爪になっていた。人間の身体を少し弄って、鳥の体の部位をくっつけたような姿なんだ。
『『『『『――オラアアアァッァァッ!』』』』』
「「「っ!?」」」
連中が一斉に上空から襲い掛かってきたので、【後ろ歩き】が通用しないこともあって俺は【幽石誘導】を使ってやった。見えない石が次々と発生し、
『『『『『ギャアアアアァァッ……!』』』』』
複数の石が物凄い勢いでやつらへと向かっていき、ことごとく命中した結果、重複したけたたましい悲鳴が耳朶を撫でる。よし、これで終わりだ――と思ったんだが、俺はすぐに考えを改めた。
な、なんだこいつら……。石をいくら当ててもこっちに向かってくるんだ。傷だらけなのにまったく怯む気配がないし、まるで痛みや恐怖という感情がごっそり抜け落ちているかのようだ。
スキルを使えば当然精神力を消耗するわけで、俺は戦闘をなるべく早々に終わらせるべく、翼や頭を狙って重点的に石を当ててるわけだが、連中の体はタフな上に痛みにも強いのか中々落ちてくれない。
それでも、絶えず発生しては向かってくる石によってやつらはなすすべもなく、やがて全員ズタボロになって落下し、地面に這いつくばる格好となった。
「――さすがフォード、やったねっ!」
「フォード様、お疲れ様でしたっ!」
「あ、あぁ。やたらとしぶとかったな……」
ようやく倒したわけだが、それでもかなり疲れた……。
あと、疲労よりも疑問のほうが先に立ってることも確かなんだ。一体、こいつらはなんだったんだろう。鳥が混ざってるとはいえ、ここまで人間の姿よりのモンスターなんて見たことがないし、仮にそういう稀な姿のモンスターが唐突に発生したとして、俺たちのところにピンポイントで来るとは思えない……。
ってことは、誰かの差し金としか思えないな――
「――中々やりおるのう」
「「「っ……?」」」
まもなく、地べたに横たわるモンスターたちを挟むようにして、一人の人物が俺たちの前に現れる。
やつは誰だ? 子供? それとも老人……? 背丈がとても小さくてローブ姿で、顔は深く被ったフードで覆われていて見えず、性別すら判断できない、まさに曖昧さというものを体現したような人物だった。
「我が名はユユ。このスラム街で産声を上げ、生きてきた者たちを代表し、聖地を荒らす異物を排除しにきた。覚悟することじゃ……」
「……」
俺は、自分の体が震えていることにようやく気付いた。なんだ? 俺は何故震えている? まるで体がここから早く逃げろとしきりに訴えているみたいだった……。
◆◆◆
「「「「……」」」」
息を潜めるようにして、教会前の様子を見つめる者たちがいた。中でも興味深そうに見ていたのがハロウドで、ローブ姿の人物が名前を明かした途端、少し間を置いてから凄みのある笑みを浮かべてみせるのだった。
「い、今の聞きましたか、みなさん……」
「ん? あのチビの名前か? 確かユユだったか……。聞いたけどよ、それがなんだってんだ?」
「なんだっていうんです?」
「なんだっていうのー?」
「兵士たちに捕まっていたときのことです……。檻の中でみなさんが眠っている中、僕のみが目を覚まし、その際に隣の牢から会話が聞こえてきたんです。それが、ここのスラム街出身だそうで……とんでもないことを話していたんですよ……」
「「「とんでもないこと……?」」」
「ええ……この魔境において、犯罪者たちのトップに君臨するのがユユという人物であり、そのスキルは【改造】という、生物を精神的にも肉体的にも自分に都合よく作り変えてしまうという、まさに魔王染みた恐ろしい存在なのだそうです……」
「「「っ!?」」」
ハロウドの台詞により、アッシュたちの面々に驚きの色が浮かんだあと、すぐに喜びの表情へと変化していった。
「そ、それじゃあ、さっきフォードにやられてた醜い化け物どもは、ユユってやつが作ったものなのか。そんなにやべえのが来たなら、今度こそ残虐公開処刑ショーを拝めるんじゃねえのか!? うおおおぉっ! アドレナリンが出まくるぜえええええっ!」
「ま……まあぁっ、アッシュったら、そんなに興奮しちゃって、みっともないですわよ? そう言うわたくしも、軽くイッちゃいそうですけれど……」
「あははー! パルルもー! いくっ! いっちゃううぅぅぅっ!」
「フッ……僕も気持ちよさのあまり、白目を剥いて盛大に気を失ってしまうかもしれませんねえ。フォードさんが醜い姿に【改造】されて、惨めに朽ちていく姿をこの目で見ようものなら……いやあ、これほどの快楽はこの世に存在しないでしょう……フフッ、フハハッ……ウヒャヒャヒャヒャヒャアァッ!」
「「「……」」」
ハロウドの狂ったような笑い声は、アッシュたちがしばらく呆然と黙り込むほどの迫力を有していた……。
◆◆◆
「リリ、メア、今すぐここから逃げるんだ……」
「「えっ……?」」
徐々にこっちへ迫ってくる、ローブ姿の人物から感じるこの気配……おそらく一歩間違えれば死ぬほどの強敵だろう。正直、みんな無事に生き残れるかどうかはまったくの未知数だと感じる。
「フォード……残念だけど、あたしはあんたの相方だからね、ここに残らせてもらうよ」
「フォード様、私もここに残らせていただきます。【聖域】さえあれば、自分だけでなくリリ様もお守りできるはずです」
「……そうか。仕方ない。それなら、絶対、しがみついてでも、何がなんでもそこから動くんじゃないぞ、二人とも」
「あいあい、わかってるよ!」
「心配ありませんとも!」
「……」
リリとメアの元気な声を耳にして、俺は逆に勇気を貰ったような気がした。そうだな……二人がいない状態で戦うより、こうして近くから見届けてもらったほうが、力はずっと増すのかもしれない……。
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