28話 語り草
「――へえぇ……じゃあその男の人って、本物の鬼さんみたいだったんだ? こわぁい!」
ボロ宿『桃源郷』の一室にて、俺とリリは今日あった出来事を、一日の仕事が終わってやってきたばかりのモモに話し始めたところだった。話すのはリリが上手いので、大体は彼女に任せて俺は酒をちびちびと飲むばかりだったが。
「鬼よりも鬼らしいっていうかさ……危うくチビりそうだったよ……」
「ひえぇっ……」
リリが手を使って鬼のような顔を作り出したので、モモが怖がって俺の背後に隠れた。今の表情、俺まで思い出してビクッとなったし、割りと的確に表現できてたな、リリのやつ……。まあ女の心には鬼が棲むっていうしなあ。
「お次に出てきたのが、笑う女さ。これがもう、笑ってるくせに短気な女で、フォードの話も聞こうとせずに10分で直せっていうんだよ……」
「ええぇっ!? フォードお兄ちゃん、可哀想……」
「あははっ……」
まあそれを言い出したのは俺のほうなんだけどな。でもそれくらい短い時間で直すって宣言しなかったら、あのアイラっていう女は短気な性格だっていうし、多分あのまま追い出されてたんじゃないかと思う。リリの話し方は本当に上手で、モモもすっかり聞き入ってる様子だった。
「――本日、三番目に出てきたやつが一番印象的でねえ……」
「ゴクリッ……」
「中級貴族の立派なお屋敷でさ、興奮の余り危篤状態になった爺さんを治せなきゃ、あたしを殺すからって人質にされたんだよ……」
「う、うわあぁ……」
「……うっぷ」
いい感じにほろ酔い状態になっていた俺も、その話になるとさすがに気分が悪くなりそうだった。もうあんなヒヤヒヤするようなことは二度とごめんだからな……。ま、こんな荒廃した世界じゃそれも望めそうにないが、目の前で家族やパートナーが殺されること以上に悲惨なことなんてそうそうないだろう。
「――ってな具合で、フォードが解決してくれたんだけどねえ……」
「うー……いいなあ、いいなあぁ……。私もリリみたいに人質になりたいよぉ……」
「おいおい、モモ……冗談はやめてくれ。俺の心臓が幾つあっても足りなくなるだろ……?」
「でも……私だってお姫様みたいに守られたいもん。誰かに誘拐されちゃおっかなあ……?」
「……」
うーん……もちろん悪気はないんだろうが、ここはちゃんと叱らないといけないところだな。
「モモ……こっちにお尻を向けなさい」
「えっ、ええぇっ……?」
「いいから。そんなことを言った罰だ」
「ううぅ……」
「へへっ、やっちゃったねえ、モモ……。フォード、あたしが代わりに叩いてあげるよっ。それっ!」
「やぁっ……! いったぁーいっ!」
パンパンと痛そうな鋭い音が響き渡るが、仕方ない。モモは仕事ができるといってもまだ10歳だし、言っちゃいけないこともあるんだとしっかり教えないとな。
「――痛いよぉ……」
「モモ、ちゃんと反省したか?」
「は、はあいっ。フォードお兄ちゃん、ごめんなさい……」
「よしよし……」
「えへへっ」
そのあと、モモの頭を撫でてやってフォローするのも忘れなかった。なんせ彼女は両親を目の前で殺されてるわけだから。
「んー……あたしもいけないこと言っちゃおうかなあ……ひいっ」
「リリ、お前なあ……」
物欲しそうに指を咥えるリリの頭を、かなり荒っぽくだが撫でてやる。この子も親に捨てられた不幸な境遇だしな。
それからもリリによって話は進み、いよいよ最後の話題に突入した。
「――んでさ、この宿に来る途中、誰かに追われてるのがわかって……」
「えぇっ……!? だ、誰だったの……?」
「それが、もうさ……絶対敵だと思って、必死になって逃げてたら、挟み撃ちに遭っちゃってねえ……」
「ひええぇっ……」
「……」
そうそう、そのときは本当に、今度こそもうダメなんじゃないかって覚悟したもんだ。
「フォードと一緒に、相手を引き付けるだけ引き付けてさ、それからスキルを使って逃げようって話になって……」
「う、うん……。そ、それで、どうなったの……?」
「それがさ、敵じゃなかったんだよ。そいつら……」
「えぇっ!?」
「みんな、なんでも解決屋の客だったんだ。それで、あたしたちが客が来なくて困ってるのを知って、励ますつもりで集まって追いかけてきたんだってさ」
「ほえぇっ……二人とも、すっかり有名人なんだあぁ……」
「まあねっ。ここまで来るのに、偽なんでも屋のせいで随分苦労しちゃったけど。ね、フォード?」
「ああ……でも、結果的にはそういう人たちに励まされてさらにやる気が出てきたから、遠回りにはなったかもだが今じゃよかったって思ってるよ」
「うん……。あたしとフォードの絆も深まったことだしっ!」
リリがモモに見せつけるかのように俺と腕を組んできた。
「ふえぇっ……!? リッ、リリのバカッ! フォードお兄ちゃんは私のだもん!」
「へへっ、勝手にそう思っておけばいいさ、モモ。フォードの気持ちは既に――イテテッ!?」
「こらこら、あんまり煽るな、リリ」
俺がリリの頭を小突くと、モモがにんまりと笑った。
「やーいやーいっ! リリがフラれたっ!」
「こ……このおぉっ!」
「おいおい……」
まーた二人とも俺の周りをグルグルと回り始めた。これって、見ないように瞼を閉じても足音や風で意識させられるせいか結局目が回るし、酔いが進みやすくなっちゃうんだよなあ……。
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