27話 痛感
あれから俺とリリは、今までと同じように【歩き屋】スキルを駆使してほかの被害者宅を訪問して回ることになった。
元仲間のアッシュたちに対して、本当に余計なことをしてくれたなという思いはもちろんあるんだが、それは些細なことだ。
今回痛感したのは、パートナーであるリリの存在がいかに大事だったかということや、【鬼顔】【笑いのツボ】【大興奮】等、ゴミスキルもかなり厄介なデバフ系スキルになりうるということ。
つまり、それらを解体して新たなスキルとして構築できる【分解】は、無限の可能性を秘めていると改めて気付くことができた。いずれは俺とリリだけでダンジョンに潜ったり、危険な依頼をこなしたりできるようになるかもしれないな。
「――ふう……大体こんなもんか。疲れたな、リリ……」
「だねえ、お腹ペッコペコだよ……」
いつの間にか、空からは夕陽が射し込んでいた。もうそんなに経ってたんだな。夢中になってたせいか気付かなかった。留守の家もあったが、そこには宣伝の貼り紙だけを置き、ほとんどの被害者宅を回ったこともあって俺たちは帰路に就くことに。
金貨1枚、銀貨2枚、銅貨260枚まで貯まったこともあり、高級宿にでも泊まろうかとも思ったんだが、やっぱり今は落ち着きたいっていう気持ちが一番強いので、馴染みのおんぼろ宿『桃源郷』へと向かうことに。
「――あ、ポポンがポンッ、ポポンがポンッ……!」
「「あはは……」」
商店街に差し掛かり、ポポンガおじさんのダミ声を耳にして、俺たちはどこかホッとしたような苦い笑みを向け合う。彼の場合、最早安心感をメインに売っているといっても過言じゃないのかもしれない。
「……」
賑やかな商店街を抜け、薄暗い道をしばらく歩いていたときだった。背後から複数の人物につけられているとわかった。
「リリ、誰かにつけられてる。宿まで一気に走るぞ……!」
「あ、あいよっ……!」
よくよく考えてみれば、なんでも解決屋はアッシュたちのせいで相当な恨みを買っていたはずで、しかもそれは客だけの話じゃなくて、銅貨1枚という廉価によって商売敵にも大きなダメージを与えていたのは想像に難くない。
「「――はっ……!?」」
正面からも複数、誰かが来るのがわかって引き返し始めたら、後ろから来た連中と挟まれる格好になった。
「くっ……! こっちの動きを完全に読まれている……」
「や、厄介な相手だねえ……って、そうだ。フォード、あたしが囮になるよ。やつらが捕まえようとしてくるところで、【足掬い】を使えばいいんだっ……!」
「いや……いい考えだと思うが、じりじりと迫ってくる状態の相手にそれは効果が薄い。まず、引き付けるだけ引き付けて、それから【希薄】で存在感をお互いに消して一点突破したあと、追いかけて来る相手にそれを使ってくれ」
「あいよ……!」
俺たちは意思の疎通を済ませ、うなずき合う。多勢に無勢で、もし捕まったら死ぬまでボコられる可能性だってあるし、なんとか逃げ切るしかない……。
◆◆◆
「「「「はあ……」」」」
都の商店街から少し離れた場所にて、なんとも肩身が狭い様子でひっそりと歩く者たちがいた。
「あー、早く酒を浴びるほどがぶ飲みしてえなあぁ……」
「うー……パルルもお酒じゃんじゃん飲みたいしー、美味しいものもお腹いっぱい食べたいよおー……」
「アッシュさん、パルルさん……僕たちは釈放されたばかりなわけですから、ほとぼりが冷めるまでしばらくは大人しくしておいたほうが無難でしょう。かなりの苦情が入ったからこそ兵士が動いたのでしょうし……」
「ですわねえ。わたくしもハロウドの言う通り、今は我慢のときだと思いますわ。『桃源郷』に泊って節約しつつ、反攻の機会を窺いましょう……」
グレイシアによってハロウドの諫言が強調される格好となり、彼らはしばらく無言で歩いていたが、まもなく一様にはっとした顔で立ち止まることになる。
彼らの視線の先には、複数の者たちによって前後から挟まれる二人組――フォードと連れの少女――の姿があった。
「あ、あそこにいるの、フォードと連れのガキじゃねえか! あれってよ……もしかして、俺たちの仲間だと思われてやられかけてるってことじゃねえか……!?」
「シッ……! アッシュさん、ここは火中の栗をわざわざ拾おうとはせず、ただ見守るのが最善かと……」
「うんうんっ、パルルもそれがいいと思うのぉー」
「わたくしたちの身代わりになってくださるんですもの……。ありがたいお話ですわ。栗は拾いませんが、骨は……当然ばっちいので拾いませんですことよ……」
「「「ププッ……!」」」
グレイシアの毒舌に対し、声を押し殺すようにして愉快そうに笑うアッシュたち。
「さあさあっ、今度こそ公開処刑ショー頼むぜえぇっ……!」
「フッ……哀れな……」
「ボッコボコにしちゃってー……!」
「今すぐ逝きなさい、フォード、あなたの本来いるべきあの世にっ――!」
「「「「「――なんでも解決屋、万歳っ!」」」」」
「「「「へっ……?」」」」
アッシュたちの表情から、喜びの色が見る見る剥がれ落ちていく。フォードと傍らの少女を取り囲んだ者たちから、次々と称賛の声が上がり始めたからだ。しかもそれは一向に止む気配がなかった。
「……な、なんか、一気にどっと疲れちまったぜ……」
「フッ……僕もです……」
「はー、最悪ぅー……」
「バカヤローですわ……」
続々と野次馬たちが集まってくる中、肩を落として歩き始めたアッシュたちのほうに目をやる者は、誰一人として見当たらないのであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます