6話 熱量
「さー、寄ってらっしゃい見てらっしゃい、フォードの見世物小屋だよー!」
都の商店街の一角にて、リリが声を張り上げて客引きしてくれてるわけなんだが、誰も彼も全然立ち止まってくれない。昼間ってことで往来する人もいっぱいいるんだし、一人くらい興味を持ってくれてもいいのに……。
「さあさあ! 何が飛び出すかはそのときにならないとわからないよ! すごーく愉快なんだ! すごーく楽しいんだ!」
「……」
ダメだ……。周囲を積み上げた石や布で軽く覆う程度だが、見世物小屋のセットまで作ったっていうのに、このままじゃ無駄な努力になってしまう……。よし、俺もリリみたいに客引きしてみるか。
「楽しいからおいで……! そこの素敵なお嬢さん、ダンディーなお爺さん、見世物小屋はどうかなあ……!?」
「フォード……多分そういうのってさ、あたしがやったほうがいいって思うんだよ……」
「……だ、だよな……」
慣れてない上、自分の声は低いほうだから余計にそう思う。こうなったら仕切りを取り払って、商品を見せる形にして客の関心を引こうかとも考えたが、それだとタダ見されるしすぐ飽きられるのは目に見えてる。うーん、どうしようか……。
「よーし……こうなったら、あたしがフォードのために一肌脱ぐよっ!」
「リ、リリ……?」
ま、まさか……リリのやつ、文字通り脱いでスケベな格好に……? 確かに目を引くだろうが、そんなことをしたら変なやつに絡まれる確率が上がると思ってやめさせようとしたら、彼女のやったことは俺の想像の斜め上だった。
「――わっ……?」
「あ、あれれっ?」
「はうわっ?」
「……」
リリが例のスキル【足掬い】を使って、道行く者たちの足を縺れさせたかと思うと、彼らが倒れ込もうとする前に支えて、見世物小屋はどうかと誘い始めたのだ。
断るやつも当たり前にいたが、五人に一人は感謝の気持ちからかこっちに来るようになった。リリのやつ、考えたなあ。早歩きしてる人とか、急いでるような者たちにはやらなかったのはさすがだ。怪我なんかさせちゃったら見世物小屋どころじゃないし本末転倒だからな。
「「「「「……」」」」」
その結果、見世物小屋の前には十人ほどが集まることになった。よーし、これくらいいれば充分だろう。みんな、本当に面白いのかよって感じの半信半疑な表情だが。
「これから、彼がとんでもないもんを出すから、穴が開くくらいよーく見るんだよ!」
「「「「「ひえっ!?」」」」」
リリの台詞でみんなの注目が俺のほうに集まる中、【目から蛇】スキルを使うと、歓声やら悲鳴やらでカオスなことになる。これは、良い結果、悪い結果、どっちにも転びそうな危うい展開だ。
それでも、途中でスキルの効果を【分解】することで中断して蛇が引っ込んだのがよかったのか概好評のようで、用意した小銭入れにお金が少しずつ投げ込まれるようになった。
「「「「「――ブラボーッ!」」」」」
噂が噂を呼び込んだのか、見世物小屋の周りにはいつしか人だかりができていた。
俺は【降焼石】と【目から蛇】を組み合わせることによって、二つのスキル――【目石】と【目火】――を一時的に作り、目から蛇だけじゃなく石や火を出すことで拍手喝采を浴びるようになり、小銭入れは目に見えて膨れ上がっていった。
「ふう……疲れたけど、結構儲かったな、リリ」
「だねえ」
あれから夕方まで見世物小屋をやった俺たちは、その足でパンを二人分買い、食べ歩きながらいつもの宿『桃源郷』へと向かっていた。
儲かったといっても、全部で銅貨68枚だしなあ。この程度だと、質素に生活しないとすぐになくなってしまう。
「――あ、フォードお兄……」
リリト一緒に宿の一室に入ってまもなく、看板娘のモモが入ってきたかと思うと、頬を膨らませていかにも不機嫌そうな顔になった。
「誰ぇ、その人……もしかして、フォードお兄ちゃん、浮気……!?」
「お、おいおいモモ、人聞きが悪いぞ……」
「いいもん。怒ってるもん。フォードお兄ちゃんは私のものだもん……」
モモが涙ぐんでる。そうだった、思い込みが激しいんだったな、この子。宿の女性店員とか、パーティーメンバーの子とここで会話したときも怒ってたし……。いつだったか、お嫁さんになってあげるって言われて、ありがとうって軽い気持ちで返したら絶対だからねって念を押されたことがあって、そのことをずっと覚えてるんだ……。
「な、なんなんだい、この子……。ま、まさかフォードって、マジでロリコン野郎なのかい!?」
「おい、リリ……」
「じょっ、冗談だってば!」
「フォードお兄ちゃんは私のものだもん! だから帰って!」
「モモ……ここにいる子は恋人じゃなくて友達だから……」
「そ、そうなんだ……? 誤解してごめんなさい……」
「あははっ、いいんだよ、あたしはフォードのパートナーでリリっていうんだ。よろしく頼むよ」
「私はモモ! この宿のね、看板娘でぇ、フォードお兄ちゃんの婚約者なんだよ。よろしくねっ!」
「……」
にこやかに挨拶し合う二人だったが、熱量みたいなものをひしひしと感じて、俺はしばらく生きた心地がしなかった……。
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