No.38:セクシーでしょ?


 翌朝、朝食を食べて仏壇にお参りをした。

 慎一おじさんにお礼を言って、家を出た。

 電車に乗ってアパートへ向かう。


 昼過ぎには、アパートに着くだろう。

 すみかさん、起きてるかな?

 昨日は忙しかっただろうから、まだ寝てるかもしれない。

 もうずっと……すみかさんの事を考えていた。


 駅に着いてからアパートまで歩く。

 自然と足取りが早くなる。


 アパートの鍵をあけて、ドアを開く。


「ただいま」


「あ、翔君。おかえりー」


 椅子から立ち上がって、トテトテとこっちへ来てくれる。

 白のロングTシャツ1枚。

 黒のブラとピンクのパンツが透けて見える。

 相変わらず無防備だな。


 僕の前に来ると、僕の腕をガシッと取って頬ずりする。


「ちょ、ちょっと、すみかさん」


「うー……お姉さん、寂しかったよぉ。朝起きたらさぁ、翔君いないんだよぉ」


 どうやら寝起きで寝ぼけているみたいだ。

 可愛んだけど……この無防備さ、なんとかしてほしい。


「今起きたとこなんですね。何か食べましたか?」


「食べてない……あ、そうだ。翔君、あけましておめでとう」


「あ、そうだ。おめでとうございます」


「今年もよろしくね」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 僕はキッチンに回って、エプロンをする。

 目玉焼きにキャベツの千切り、トーストを用意する。

 すみかさんには、コーヒーを用意してもらった。


 2人分をテーブルの上に置いて、僕も食べることにした。


「その格好、寒くなかったんですか?」


 すみかさんは、相変わらずロングTシャツ一枚だ。


「寒かった。だから暖房をつけて、またベッドの中に入ったの。そしたら二度寝しちゃって……」


 なるほど。

 それで僕が帰ってきた時が、寝起きだったと。


「すみかさん相変わらず無防備ですね、その格好。下着が思いっきり透けてます」


「あ、これ? この黒のブラ、セクシーでしょ? これはね、胸元がおおきく開いてるヤツなんだよ。まあ、ちょっと翔君には早かったかな」

 すみかさんは悪戯っぽく笑う。


「何言ってるんですか。自分だって経験ないくせに」


「あー、そーゆーことはね! 言っちゃいけないんだよ!」


 一方的に言われるのも、不公平だ。

 たまには言わないとね。


「でもすみかさん、さっきの話なんですけど」


「さっきの話って?」


「その……僕も寂しかったですよ」


「えっ……」


「すみかさんがいなくて、寂しかったです」


「もー、そーゆーの、面と向かって言わないでよぉ」

 すみかさんは、顔を両手で覆う。

 耳までピンク色だ。


「何ですか、自分は言うくせに」


「私はいいの! お姉さんだから!」


「めちゃくちゃですね」


「ふふっ、でもそっか。嬉しいな。おんなじだね」


「まあ、そうしといてください」

 僕だって照れくさい。


「そうだ、翔君初詣に行かない?」


「初詣ですか? いいですね、いつ行きます?」


「今日はもうお昼過ぎになっちゃったから、明日にしない?」


「いいですよ。じゃあ明日初詣に行きましょう」


「うん、楽しみー」


「今日、これからどうします? 僕もバイトはないんです」


「んー、そうだね……王様ゲームでもやる?」


「地獄ですね」


 2人で王様ゲームとか、地獄でしかない。


………………………………………………………………


 翌日、僕はすみかさんと初詣に出かけた。

 ベージュピンクのコートに身を包んだすみかさんは、今日も綺麗なお姉さんだ。


 電車に乗ること30分。

 この街の郊外にある、一番大きい神社だ。

 この辺では初詣の参拝客は、この神社が一番多い。


 最寄りの駅から降りて、神社に向かって歩く。

 駅から神社までは、ちゃんと参道になっている。

 参道の左右には、お店がたくさん並んでいる。


 神社の鳥居をくぐり、手水舎で手を清める。

 そのまま境内の方に回って、お参りをする。


 僕はすみかさんの仕事が見つかりますように、とお願いした。

 ついでに学校のプロジェクトのことも、お願いした。

 お願いの重さに対して、賽銭が少なかったかもしれないけど。


「ちゃんと就職のお祈りをしましたか?」


「もちろん。それと翔君の特別推薦のこともね」


 お互い考えていたことは、同じだった。

 僕らは社務所に行って、おみくじを引いた。


 すみかさんは大吉。

 僕は末吉。


 すみかさんの「仕事」:努力が実を結ぶ。

 僕の「学問」:継続努力が必要


 この差はなに?


「やったー!」

 すみかさんはピョンピョン飛び跳ね、喜んでいる。


「僕は継続努力が必要みたいです」


「うんうん、学問とはそういうものだよ」

 上から目線で、すみかさんに言われた。


 もっと微妙だったのが、「恋愛」。

 偶然にも、二人とも同じことが書いてあった。



「焦るべからず、今ではない」



 僕はこれについては触れなかった。

 すみかさんも話題に出さなかった。

 まあ所詮はおみくじだしね。


 すみかさんは、そのおみくじがすごく嬉しかったみたいだ。

 枝に結ばず、持って帰ってお財布の中に入れておくらしい。

 僕はちょっと微妙だったので、枝に結んだ。

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