No.37:大晦日


 年末はもの凄いスピードで、あっという間に駆け抜けていった。

 冬休みに入ってから、すみかさんと過ごす時間が増えた。


 すみかさんは日中、たまに勉強するぐらいで、年末年始は就職活動はお休みだ。

 だから僕がバイトの無い日は、1日3食、ほとんど一緒に食べている。

 僕が作って、すみかさんが後片付けをしてくれる。

 掃除洗濯は、すみかさんが完璧にやってくれている。

 そしてすみかさんは、夜バイトに出かけていく。

 ものすごく快適な毎日だ。


 よく一緒に買い物も行くようになった。

 業務スーパーで僕がカートを押しながら、二人で商品を見る。


「なんだか本当の恋人同士みたいですね」

 僕がふざけて言う。


「そ、そうだね。将来恋人ができた時の予行演習になるかも」


「どっちのですか? すみかさん? それとも、僕ですか?」


「どっちもだよ」


 すみかさんは、屈託のない笑顔でそう言った。

 すみかさんが別の男と、買い物カートを押しながら歩いている。

 そんな未来は想像したくなかったけど。


 大晦日。

 僕は一泊で慎一おじさんの所へ行くことにした。

 すみかさんには、冷蔵庫にあるものを何でも食べて下さいと言っておいた。


「ありがとう。気を遣わなくていいからね」

 すみかさんは、そう言って微笑んだ。


 家を出るときに「いってきますね」と言うと、

「いってらっしゃい。うー……ちょっと寂しいかも……」

 と言ってくれた。

 因みに正月三が日は、すみかさんのバイトもお休みだ。


 徒歩と電車で2時間ちょっと。

 隣の県に住む慎一おじさんの家は、結構遠い。


「こんにちは、おじさん。ご無沙汰してます」


「やあ、翔君。よく来たね。本当に久しぶり。背が少し伸びたんじゃないかな?」


「はい、ちょっとだけですけど」


 僕は早速、奥の部屋の隅にある仏壇の前に座る。

 線香に火をつけて、手を合わせる。


 両親と妹の仏壇は、慎一おじさんの家にある。

 僕の家だと狭いだろうということと、できるだけマメに慎一おじさんの家に遊び来るようにということで、ここに置かれている。


 ちなみにお墓がある霊園は、アパートとおじさんの家のちょうど中間にある。

 暖かくなったら、お参りにいく予定だ。


「すいません、なかなかお邪魔できなくて」


「いいんだよ。やることが多くて忙しいことはいいことだよ」


「はい、今学校で、あるプロジェクトを任されているんです」


「へー、それは頼もしいなぁ」


 僕は今学校でやっているWeb戦略プロジェクトについて話した。


「翔君、そんなに大きなプロジェクトを任されているんだね。で、途中経過はどうなんだい?」


「はい、今のところ好評です。オープンキャンパスの申込みも、去年の5倍ぐらいに増えたんですよ。やっぱりSNSの効果は大きいです」


「それはすごい。なんとか結果を出して、その特別推薦枠を取れるといいね」


「はい。あと……大学に入ったらもっとバイトして、水道光熱費ぐらいは払うようにしますから」


「あはは。まあそれはいいよ。余裕ができたらね」


 住む場所を、無償で提供してもらっている。

 慎一おじさんには、本当に感謝だ。


 もし、今女性がもう一人住んでいると聞いたら、どう思うだろうか。

 もちろんそんなことは言えないけど。


 そんなこともあって、今回ここへ来ることにした。

 あまりご無沙汰してしまうと、慎一おじさんの方からアパートへ来られるかもしれないと思ったからだ。

 いずれにしても、もう少しの間だけ、目を瞑っていてもらおう。


「あれから……もう2年経つんだなぁ」


「そうですね」


「翔君の成長を、大輝にも優子さんにも見てほしかったよ」


 瀬戸川大輝は僕の父親、つまりおじさんの弟。

 瀬戸川優子は、僕の母親だ。


「本当に慎一おじさんには感謝してます」


「いいんだよ、そんなことは。でも翔君、明るくなったね」


「そうですか?」


「うん、何て言うか……表情が生き生きとしているよ。学校で何かいいことがあったのかな?」


「ええ、まあそうですね。学校は楽しいです」


 僕が明るくなった理由。

 そんなのは、一つしかない。


「そっか。僕もちょっと安心したよ。じゃあもうちょっとしたら、外へ食べに行こう」


 もう時間は夕方になっていた。

 おじさんと一緒に、夕食を食べに出た。

 入ったお店は、居酒屋だった。

 おじさんの、行きつけらしい。


 おつまみだけじゃなくて、ちゃんとした定食もあった。

 僕は焼肉定食を頼んだ。

 おじさんは、お酒を飲んでいた。


 おじさんの家に戻って、テレビを見た。

 すみかさんはどうしてるかな。

 今日はお店で、カウントダウンイベントがあるって言ってたっけ。


 夜の11時過ぎ。

 おじさんは、カップ麺のそばを準備し始めた。

 年越しそば、ということらしい。

 すみかさんに、会いたくなった。


 深夜0時を過ぎた。

「あけまして、おめでとうございます」

 挨拶をしてから、僕たちは就寝した。

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