No.35:「大丈夫じゃないかも……」


 咲楽さんがあまりにもうるさいので、とりあえず用意してみることにした。


 トランプのカードを3枚。

 KキングAエースと2のカード。

 Kキングが王様で、Aエースが1、2はそのままだ。


 3枚のカードをテーブルの上に伏せて、3人でいっぺんに取る。


「僕が王様ですね」


 一応可愛いネタからいってみよう。


「ではお二人に。今まで食べてきた中で、一番美味しかったものを教えてください」


「なんだよ、そんなんでいいのか? つまんねーな」

 咲楽さんは不満そうだが。


 咲楽さんは卒業旅行で神戸に行った時に食べた但馬牛のステーキ。

 すみかさんは……業スーの冷凍焼き肉ライスバーガーと玉子スープだそうだ。


「は? なんだそれ?」

 咲楽さんは不満そうだ。


「いいの!」

 顔を赤くしながら、すみかさんは言い切った。


 2回戦。

 王様はすみかさん。


「じゃあね、1番の人が2番の人を、お姫様だっこ」


 1番が咲楽さん。

 2番が僕だ。


 一応やってもらった。

 咲楽さんは2秒ぐらい、なんとか僕を持ち上げた。

 こめかみの血管が切れそうな顔をしていた。


 3回戦

 王様は、またすみかさん。


「じゃあ二人共。過去にあった、恥ずかしい話をして下さい」

 やさしいやつだ。


 咲楽さんは以前付き合っていた彼氏とホテルに行ったとき、飲みすぎて彼氏の顔面に思いっきり吐いたそうだ。

 速攻で振られたらしい。


 僕は……この間、亜美がこの部屋に来た時の話をした。

 もう咲楽さんは爆笑だった。

 僕は全然笑えないんだけど。


 4回戦

 王様は僕。

 なかなか咲楽さんには、回らない。


「えーっと、じゃあ1番と2番、腕相撲して下さい」


「なんだよ、さっきからつまんねーな。すみか、腕相撲じゃなくて、ちゅーしようぜ」


「ちょっと、咲楽、飲みすぎ」


「酔ってねーぞ。ほら、こっち来て」


「ちょっと! もー」


 口を尖らす咲楽さんと、押し返すすみかさんの攻防が始まる。

 なんだかちょっと百合々々しい。


 結局腕相撲は咲楽さんが速攻で勝利。

 すみかさんは瞬殺だった。


 5回戦。

 満を持して、咲楽さんが王様。


「よっしゃーきたー! はい、すみかと少年、そこでセッ◯スして!」


 メチャメチャだな。


「公序良俗に反しますって。もっとハードル下げてくださいよ」


「ん? そうか。じゃあチューで許してやる」


「もー、咲楽完全に酔っ払ってる」


「まだハードル高いですから。もうちょっと初心者向けに下げてください」


「じゃあ少年、すみかのおっぱい、揉んでいいぞ」


「ハードルの高さがおかしい!」


 カオスだった。

 なんだよ、そんなこともできねーのか、とか言ってるし。

 できっこないでしょ。


「わかった。じゃあまあステップ1からだな。はい立って。2人でハグして」


「ハグ、ですか?」


「えっと……」


 まあそれぐらいが、妥協点……なのかな。

 それでも、まだハードルが高いけど。


 僕とすみかさんは立ち上がった。

 すみかさんが僕を見上げる。

 心なしか、すみかさんの目が潤んでいる。


「えーっと……じゃあ失礼しますね」


「……うん……」


 すみかさんは頬を紅潮させて、やわらかい笑みを浮かべている。

 上目遣いのすみかさん。

 ヤバい、超可愛い。

 理性が飛びそう。


 すみかさんは、顔をゆっくりと僕の胸につけた。

 それから僕の背中に手を回して、ぎゅっとした。

 僕も自分の頬をすみかさんの頭につけて、背中に手を回した。


 すみかさんの匂いだ。

 すみかさんの頭も、顔も、胸も、全部僕に密着している。

 心臓の鼓動が高鳴る。

 すみかさんの心音も聞こえてきそうな気がした。


 幸せな気分だった。

 なんだかすみかさんと、気持ちが通じたような。

 僕は……離れたくなかった。

 ずっとこのままで、いたかった。


 どれぐらい、そうしていただろう。

 10秒?20秒?

 時間が止まらないかな……。


「いつまでやってんだよー」


 そんな無粋な声で僕は我に返る。

 仕方なく、手の力を緩める。


 ところが、すみかさんが……僕にしがみついたままだ。

 意外と力が強い。


「すみかさん?」

 僕が声をかける。


「……えっ?」

 すみかさんは力を緩めた。

 それでも、おでこを僕の胸につけたままだ。


「大丈夫ですか?」


「……大丈夫じゃないかも……」


「え?」

 声がこもって、よく聞こえない。


「ううん、ごめん。はい、おしまい」


 すみかさんは僕から離れて、にっこり笑った。

 大丈夫かな?

 ちょっと心配だ。


 次のターンで再び王様になった咲楽さんは、


「よし、少年! 色々と教えてやる。ウチとセッ◯スしよう!」


「はい?」


「咲楽、ちょっと!」


 いきなり上着を脱ぎだす咲楽さんを、僕とすみかさんで必死に止めた。


………………………………………………………………


 30分後。

 テーブルの上でぶっ潰れている咲楽さんがいた。


 あれから王様ゲームを少し続けたら、咲楽さんが壊れだした。

 僕の服を脱がせようとするし、すみかさんの胸を揉みまくるし……。

 結局しばらくして、ぶつぶつ言いながらテーブルの上に伏せてしまった。


 僕とすみかさんは顔を見合わせた。


「これ、どうします?」


「もう……とりあえず私のベッドに運んでくれる?」


「はい」


 さて、どうやって運ぼうか。

 僕は咲楽さんの首と膝の下に手を入れて、よいしょっと持ち上げた。

 いわゆるお姫様抱っこだ。


 うわ、めっちゃ軽い。

 まあ咲楽さん、痩せてるからな。


 すみかさんのベッドの上に咲楽さんを寝かせて、布団をかけてあげた。

 すみかさんが物言いたげに、僕の方をじっと見ている。


「なんですか?」


「へ? え、えっと……なんか、いいなーって」


「何がですか?」


「……」


「お姫様抱っこが、ですか?」


 すみかさんはコクンと頷く。


「お望みなら、やりますけど?」


「い、いい! 私、足太いから! 足は持っちゃ、ダメ!」


 あいかわらず足はダメだそうだ。

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