No.30:オープンキャンパス
学校のWeb戦略プロジェクトは、順調に進んでいる。
学校内の施設紹介やクラブ活動、クラスの授業風景など、かなりの数の動画を撮影した。
その動画を僕が簡単に加工して、広告代理店の山里さんに送る。
山里さんはそれをさらに修正して、学校のウェブサイトやYoutubeにアップロードする。
最後にインタスグラムとツエッターで拡散する、という作業だ。
短い動画ファイルなら、僕の方から直接SNS拡散してもいいと言われている。
内容は任されているが、コンプライアンス違反がないかどうか、とても気を使う。
その辺は一応アップロード前に、波平先生にチェックしてもらっている。
予想外だったのは、SNSの方だ。
2人のアンバサダー、亜美と智也を中心に学校紹介動画をアップしたのだが、これが軽くバズった。
「めっちゃ可愛い人が、学校案内してる」
「俺もこの学校に、転校したい」
「男の先輩も、めっちゃイケメン」
「城京一高、レベルたっか」
インタスのフォロワーが、なんと1万人を超えてしまった。
因みにうちの学校から通学距離圏内の中学3年生の数は、約1万5千人。
それを考えると、とんでもない数字だ。
もちろんそれなりの人数が、中学3年生以外だろう。
ただ受験生の保護者がフォローしているということも考えられる。
いずれにしても、宣伝効果としては極めて高い。
亜美と智也にこの事を話した。
「学校のことを本当に見てくれているのか分からないので、微妙な気分」
というのが二人の共通した意見だった。
11月の第3日曜日、城京一高はオープンキャンパスを予定していた。
これは受験生と保護者1名を招待して、学校の中を案内するものだ。
去年は300組ぐらいの来場者だった。
今年はそれなりに来場申し込み数は増えるだろう。
500組ぐらい?あるいは去年の倍程度だろうか。
その程度で考えていた。
しかし蓋を開けてみれば、1,500組以上の申し込みがあった。
明らかにWeb戦略が功を奏したと言える。
さすがにこの人数は
抽選で1000組限定とさせてもらった。
そして急遽第4日曜日も、オープンキャンパスを実施することにした。
1日あたり、500組を対応することになる。
オープンキャンパスは、時間予約制の完全入れ替え制とした。
一人の案内人が10組の人数を1チームとして担当。
これを10チーム作り、それぞれ違う場所から1時間かけて見学ツアーをするスタイルとした。
つまり1時間で100組の見学者が動くこととなる。
これは見ていて壮観だった。
終わったら見学者を入れ替え、45分後にまた10チームスタートした。
これを1日5回繰り返す。
案内人もかなりの人数を確保しなければならなかった。
基本的に一人当たり1日2ツアーを担当してもらった。
それ以外にも、会場整備やら何やらで、生徒会と教師陣に準備を手伝ってもらった。
もう総力戦だ。
オープンキャンパスは、かなりの好感触で終わった。
うちの高校は、城京大学への進学だけではなく、成績上位の生徒は国公立の大学へ進学する者も多い。
教育カリキュラムや、設備にかなり関心を持った見学者が多かった。
一方で城京一高の部活はスポーツ系はそれほど強くはない。
ただし文科系は、全国区の部活もいくつかある。
吹奏楽部や合唱部、弁論大会や英語スピーチなどは、全国でも好成績を収めている。
そういった点も、見学者にアピールできたと思う。
ところで案内人には、アンバサダーである亜美と智也にも担当してもらった。
この二人に当たった見学者たちは、最初から歓声を上げていた。
まるで有名人を目の当たりにしたような感じだろう。
亜美と智也の案内ぶりは、それはもう堂々としたものだった。
彼らは多くのところで既に学校案内の動画を撮っている。
予行演習を済ましているようなものだ。
ツアーの最後に、見学者から自撮りのツーショットをよく頼まれていた。
まあコンプライアンス上からも、特に問題ないだろう。
僕も遊んでいたわけではない。
動画撮影隊として、一日中いろんなグループに混じって撮影を続けた。
難しかったのは、見学者をできるだけ画面入れないことだ。
後々プライバシーの問題に関わってくる。
どうしても入ってしまった場合は、ぼかしを入れて加工する予定だ。
僕が撮った動画は、後日広告代理店の山里さんに送る。
そして学校のウェブサイトに「バーチャル・オープンキャンパス」として、アップしてもらう予定だ。
今回抽選にハズレて来られなかった人達に、見てもらわないといけない。
二回目のオープンキャンパスの、最終ツアーが終了した。
ものすごい疲労感と、充実感だった。
全員で後片付けを始める。
「翔、お疲れ様」
亜美が声をかけてきた。
「亜美こそ、お疲れ様。学校案内、堂々としていてすごく良かった」
「ホントに? ありがと」
「本当に助かったよ。亜美と智也にお願いして、本当によかった」
「だといいんだけどね。翔……あのさ……」
「ん?」
「この間ね、智也に……告白された」
「……そうなんだ」
「ずっと好きだったって。でも亜美の気持ちもずっと分かってたって」
「……」
「返事は急がない。ずっと友達でもいいからって」
「いいやつだな。智也は」
「優しいよね、智也。あたし……全然気がつかなかったよ。智也のこと」
「僕は……わかってたよ。智也の気持ち。その……亜美のことも。なんとなく」
「えーーーー、知らなかったの、あたしだけ? なんかバカみたい……」
「そんなことないよ」
「なんか、うまくいかないね」
「そうだな。本当にそう思うよ」
「ねえ、翔」
亜美はまっすぐ僕の顔を見た。
「これからも、友達でいてね」
「当たり前だろ? こちらこそだよ」
亜美はふふっと笑って「じゃあ、あたし戻るね」と言って、友達が待っている所へ小走りで行ってしまった。
僕は小さくため息をついた。
いろんなことが変わっていく。
でも変わらずに続いていくことだって、あっていいはずだ。
僕たちはこれからどうなっていくんだろう。
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