No.28:苦労人の咲楽さん


 2巡目の餃子を食べている時、話題は僕の今学校でやっているプロジェクトの話になった。特別推薦枠の話題になると、


「少年。その推薦枠、死ぬ気で取りに行かないとダメ。もう奨学金の返済とか、本当に地獄だから」


 話を聞くと、咲楽さんはかなりの苦労人らしい。

 高校の時に不登校になり、結局そのまま高校を中退。

 ただ元々頭は良かったので、勉強して高卒認定試験に合格。

 その後、一般受験で江戸山大学へ入学した。

 そして今年の春、卒業したばかりらしい。

 すみかさんと大学卒業時期は同じだが、年は咲楽さんのほうが2つ上とのことだ。


 一般高校を卒業しないでJUNEの一角に合格できたというのは、やはり元々「地頭力じあたまりょく」があったんだろう。


「はい、僕も家族がいなくて金銭的に辛いので、なんとか頑張りたいと思ってます」


「すみかから聞いた。ご家族のこと、大変だったんだな」


 すみかさんが、話してくれていたらしい。


「でもお金の事は大切だよ。ウチも家がシングルマザーで、すごい貧乏だったから大変だったんだ」


 咲楽さんは大学費用を全額奨学金でまかなったそうだ。

 夜のバイトは、就職先から内定をもらった大学4年の時から働いていたそうだ。

 そして卒業後、4月から中堅の事務機器商社に就職。

 ただ給料が安いのと、お母さんが病気がちでなかなか働けないらしい。

 おまけに奨学金の返済も始まった。

 お金が全然足りないので、夜のバイトも引き続き続けてダブルワーク状態とのことだ。


「なんとか30過ぎぐらいまでに、奨学金を返済したいと思ってるんだ。体力のあるうちに頑張って働いてね。でも毎日、結構きつくてさ」


「それは大変ですね。お昼間の仕事の方に、影響とか出ないんですか?」


「たまに眠たくなるかな? でも昼間の仕事は楽だから、なんとかなってる」


 やっぱり社会人って大変なんだな。


 餃子が無くなってきたので、パスタを茹で始めた。

 茹で上がったパスタを皿に乗せ、トマトソースをかける。

 別のお皿に野菜をちぎって、適当に盛り付ける。

 それをテーブルの上に運んだ。


「うわー、すみかから聞いてたけど、少年、ちゃんと料理できるんだね。すごいな」


「そうなんだよ。いっつも美味しいごはん、作ってくれるの」


「こんなのパスタを茹でて、出来合いのソースをかけるだけですよ。料理と呼べるか疑わしいです」


 3人でパスタを食べ始める。

 僕はパルメザンチーズを沢山かけるのが好きだ。

 サラダにごまドレッシングをかけた。

 業スーのごまドレッシングは、安くて量があって美味いんだ。


 パスタを食べ終えて、すみかさんと咲楽さんは、お皿を洗ってくれている。

 その間に僕は3人分のコーヒーを入れる。

 最近インスタントコーヒーは卒業した。

 すみかさんが、ドリップバッグコーヒーを買ってきてくれるようになった。

 こっちの方が断然うまい。


 お皿に咲楽さんが買ってきてくれたケーキを取り分ける。

 その横に、アイスクリームをスクープでのせる。

 豪華なデザートだ。


 コーヒーとデザートをテーブルの上に乗せる。

 女性2人から歓声があがった。

 咲楽さんが買ってきてくれたケーキが、めちゃめちゃ美味しかった。

 高くていつも買えないから、余計にそう感じたのかもしれない。


「でも教師の道って、なかなか厳しいかもしれないな。どこも今は採用絞ってるし」

 咲楽さんがすみかさんの方を向いて話しだした。


「うん……わかってるんだけどね。予備校の講師でもいいんだけど……やっぱり高校の教師がいいなぁ」


「僕は絶対すみかさんは高校教師になるべきだと思います」


「お、少年、言うねえ」


「僕、試験前にすみかさんに勉強を教えてもらったんですよ。僕の弱いところを瞬時に見抜いて、ものすごくわかりやすく説明してくれたんです。おかげで英語だけ点数がめちゃめちゃ上がったんですよ」


 僕はコーヒーを一口飲んだ。


「すみかさんみたいな先生が学校で授業してくれたら、生徒全員成績が伸びますよ。そうなったらクラス全体の学力が上がるわけだから、学校としてもメリットがありますよね。こんなに夢と情熱を持った教師って、少なくとも僕の学校にはいないと思います」


「翔君、褒めすぎだよ」

 すみかさんは苦笑いをする。

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