No.27:城之内咲楽


 1-2日ですみかさんの体調は回復した。

 すっかり回復したすみかさんは、ベッドの中で話したことを思い出したらしい。

 赤面しながら「あの時の話は、全部忘れて欲しい」と言われた。

 僕は「無理です」と一蹴した。

 「いじわる……」と拗ねられた。


 次の週末の土曜日。

 僕はすみかさんと夕食を共にしていた。

 今日のおかずは、電子レンジで作った麻婆豆腐だ。


「翔君、お願いがあるんだけど」


「何でしょう?」


「突然で悪いんだけど……明日の夜なんだけどね。さっきLimeがあって、友達が一人ここに遊びに来たいって言ってるんだけど……やっぱり難しいかな?」


「狭くてもよければ、全然いいですよ」


「ほんとに? お店のキャストの子でね。すごくいい子なの。でもちょっと強引なところがあって……」


 すみかさんのバイト先の人だったら、僕もいろいろ話が聞けるので興味がある。

 せっかくなので夕食を作って一緒に食べましょう、ということになった。


 そして翌日の日曜日。

 僕は夕食の準備をしていた。

 今日のメニューは、業スーの冷凍餃子、トマトソーススパゲッティにサラダ、デザートのアイスクリーム。

 すみかさんたちが戻ってきてから、焼いたり茹でたりするだけだ。


 夕方6時ぐらい。

 駅で待ち合わせをしたすみかさん達が、戻ってきた。


「よう、少年! 話はいろいろ聞いてるぞー」


 小柄でスリムな体躯で、茶髪のショートカット。

 切れ長の目元で、整った顔立ちだ。

 チェックのシャツに黒いセーター。

 ブルーのスキニージーンズ。

「きれい、可愛い」というより、「イケメン」という言葉がよく似合う。

 

「ウチ、城之内じょうのうち咲楽さくら咲楽さくらでいいからね。よろしく!」


「こんばんは。瀬戸川翔といいます。よろしくお願いします」


「うわー、固い固い。真面目君か?」


 非常にフランクで、インパクトの強い人物だった。


 咲楽さんは手土産に駅前で買ったと思われるケーキと、自分用のビールを持参していた。

 僕は餃子を焼き始めた。


「おっ、少年。分かってるねぇ。ビールに餃子は合うんだよなー」

「どんどん焼きますからね。たくさん食べて下さい」


 1巡目の餃子が焼き終わった時、3人で乾杯した。

 咲楽さんはビール、僕とすみかさんはウーロン茶だ。

「少年、飲むか?」と咲楽さんがに聞かれたが、「未成年に何言ってるの」とすみかさんに怒られていた。


「んー、うまいねぇー。少年、これ自分で作ったの?」


「まさか。業スーの冷凍餃子ですよ」


「そうなの? でも十分ウマイよ」


 咲楽さんもすみかさんも、お腹が空いていたようだ。

 餃子はあっという間になくなった。

 僕は2巡目を焼き始めた。


「なんだなんだ。話には聞いてたけど、何でベッドの間に仕切りなんか立ててんだ? ダブルベッドひとつ置けばいいだけじゃん」


「咲楽、だから私たち、そういうんじゃないんだって。一応ルームメイトなんだから」


「ルームメイトっつったって、男と女だろ? やっちまえば一緒だよ」


「もー。咲楽、下品!」


 かなり強烈な人だな、咲楽さん……


「そっかー。で、少年は、このすみかお姉さんの豊満な肉体を眺めながら、お預けを食らってるわけだな。まったく同情するよ!」


 うーん、半分は合ってるかもしれません、咲楽さん。


「そ、そんなことないわよ……。ないよね? 翔君?」


「僕に振らないで下さいよ」


「まあうちの店でもそうだからな。すみか、めっちゃ人気あんだよ。で、この通り天然で隙だらけで、でも近寄るとすっげーガード固いわけ。まあそこが人気の秘密なのかもね」


「やっぱりすみかさん、お店では人気なんですか?」


「そりゃあもう。このルックスと、このわがままボディーだからね。それで頭もいいから、相手にできる客の幅が広いわけ。ただウチと一緒で、同伴もアフターも絶対にしないから、お店の売り上げ的には貢献度が低いんだけどさ」


 どうやら同伴とかアフターっていうのは、お店の時間外でのお仕事らしい。

 残業みたいなものか?


「だって同伴とアフターをやり始めると、本当に夜が中心の生活になっちゃうじゃない? そうすると、お昼間の活動ができなくなるからね。だからお店にはちょっと申し訳ないんだけど」

 すみかさんが、話を拾う。

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