No.24:アンバサダー
プロジェクト名は、「城京一高Web戦略プロジェクト」。
一応僕が、学生全体のプロジェクトリーダーとなった。
職員側のリーダーが、波平先生こと山田副校長。
そして広告代理店の担当者が、山里さんという女性の方だ。
このプロジェクトのことを、僕はすみかさんに話した。
「すごいじゃない! プロジェクトもそうだけど、その特別推薦枠は絶対に取らないとだめだよ! そんな太っ腹な学費免除の推薦なんて聞いたことないし、他の奨学金にも有利なんでしょ? 将来奨学金を返済するときに、ものすごく楽になるから。絶対に頑張って!」
奨学金の返済に苦しんでいる最中のすみかさんの言葉は、とても現実味があった。
二日後の夕方、僕と副校長、山里さんの3人でミーティングを行った。
そこで決まったことは、
1.SNS戦略として、インタスグラムとツエッターの学校公式アカウントを作成して、動画を配信していくこと。
2.その元となる動画を、僕の方で撮ってほしいこと。
3.動画の撮影時に映してほしくない生徒は、その旨申し出てもらうように学校側から通知・連絡すること。
主だったところは、この3点だった。
3番は副校長の仕事だ。
問題は2番で、僕が動画を撮るにしても、モデルが必要だ。
うってつけの人物はいる。
問題は受けてくれるかどうかだ。
………………………………………………………………
「頼む。アンバサダーを引き受けてくれないか」
僕は2人の前で、頭を下げる。
「あたしは……いいよ。翔の頼みだったら、断れないよ」
「亜美がやるなら、俺もいいぜ!」
頼むのであれば、この2人以外にない。
僕は亜美と智也に、学校紹介アンバサダーになってくれるようにお願いした。
アンバサダーとは動画作成する際、学校紹介の中心的役割をしてもらうメンバーだ。
11月末には、受験生対象のオープンキャンパスが控えている。
その時の学校案内も、引き受けてもらう予定だ。
アンバサダーは2年生が妥当だろう。
1年生では荷が重く、3年生は受験がある。
そしてこの2人は容姿・成績共に良く、品行方正。
女子テニス部のエースと、男子バスケ部のパワーフォワード。
コミュニケーション能力が高く、人望も厚い。
彼らにお願いすれば、間違いない。
早速いくつかの動画撮影に取り掛かる。
まずは学校内の施設紹介から。
僕が撮影係で、智也と亜美が説明係だ。
台本はないが、簡単なメモをあらかじめ渡しておく。
そのメモを頭に入れて、その施設が実際どのように使われているのかを彼らが説明する。
本当に彼らの能力には舌を巻く。
撮影に関しては、あえてスマホだけを使うことにした。
智也も亜美も、僕と同じリンゴのロゴのアイポンという機種を使っている。
この機種の動画撮影機能は、極めて優秀だ。
クラスの授業風景や、クラブ活動についても撮影していくことにした。
学校側から全生徒に、撮影に関する通知をしてもらっている。
今のところ撮影NGの生徒の申し出はないそうだ。
クラブ活動の撮影については、手始めに女子テニス部と男子バスケ部だ。
智也と亜美に、撮影を依頼した。
彼らは自撮り棒も駆使して、頑張って撮影をしてくれた。
他の部員にもインタビューしてもらったり、臨場感あふれる動画となった。
まだまだやることは沢山ある。
これから一つずつ、こなしていこう。
まずは上々の滑り出しだ。
………………………………………………………………
「ただいま」
「おかえり、翔君」
今日はバイトがない。
アパートへ戻ると、すみかさんが僕の机で勉強していた。
僕がいない時は、勉強机を自由に使ってもらっている。
「ごめんね、また机使わせてもらってるよ」
「全然いいですよ」
僕は制服のまま、ベッドの上に腰掛けた。
メガネをかけたすみかさんは、とても理知的だ。
いかにも学校の先生が、資料を作っているという感じがする。
「勉強も大変なんですね」
「そうなの。教員採用試験の勉強もしなきゃいけないと思って」
「どんな感じの試験なんですか?」
「次回はまた一次試験から受けないといけないんだけどね。もちろん英語だけじゃないの。教職教養問題っていうのがあってね。これがまた厄介なんだ」
「教養問題? クイズみたいな感じのやつですか?」
「うーん、例えば「日本国憲法に関する記載で、正しいものはどれか?」とかそんな問題。教職と全然関係ないと思うんだけどね」
「うわー、範囲がめちゃくちゃ広そうですね」
「そうなの。でもまあ一次試験は何とかなるとは思うんだけど、一応おさらいはしておかなくっちゃね」
そう言ってすみかさんは、一口コーヒーを飲んだ。
今日の部屋着は、胸元が大きく開いたTシャツだ。
少し前屈みになったすみかさんは、ブラが丸見えだ。
ボリュームのあるGカップは、迫力がある。
「すみかさん、今学校紹介用の動画撮影をしているんですけど、受験生に対してどういうアピールしていけばいいのか考えているんです。何か良いアイデアはありますか?」
「うーん、受験生に対してもなんだけど、受験生の保護者に対してもアピールを考えないといけないんじゃないかな?」
「受験生の保護者、ですか?」
「うん。だって受験するのは学生だけど、お金を出したりサポートするのは保護者じゃない? それに城京一高の卒業後の進学状況とか、保護者も受験生も気になるでしょ?」
「なるほど」
「どうしたって保護者の意見って影響が大きいからね。だから保護者へのアピールも忘れないことと、あと受験生には学校での日常生活がイメージできるようなビデオクリップも少し入れてあげるとウケがいいと思うよ」
「さすがですね。その視点はなかったです。早速やってみます」
「うん、うまくいくといいけどね。それより絶対、特別推薦枠ゲットするんだよ!」
「そうですね。がんばります!」
ちょっとワクワクしてきた。
進学状況とかは、波平先生にも相談してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます