No.23:プロジェクト
「それと君に声をかけた理由はもう一つあってな」
校長が少し居住まいを正す。
「君は城京大学への特別推薦枠というのを知っているかの?」
「!」
もちろん知っている。
むしろうちの生徒で、知らないやつはいないだろう。
毎年1名だけの、城京大学への特別推薦枠。
学部も経済学部、法学部、商学部の中から、好きな学部を選べる。
試験は形式上、面接と小論文だけ。
実質無試験だ。
しかも入学金と、初年度の授業料が全額免除だ。
これが大きい。
ざっと計算しても、大学4年間の総学費の3分の1ぐらいの金額になる。
しかも大学には他にも様々な返済不要の奨学金があるのだが、「特別推薦枠で入ってきた生徒」というフラグが立つと、奨学金申請の際に何かと有利なのだ。
副次的な効果も大きい。
この特別推薦枠、成績だけでは難しい。
一言で言うと、「学校にメリットを与えた者、知名度を高めた者」が優遇される。
例えばスポーツの全国大会上位とか、弁論大会の世界大会に進出とか。
過去にはそういった生徒達が選ばれている。
もちろん僕にはまったく縁がないことなので、全然興味はなかったが。
「もしこのプロジェクトが成功したら、瀬戸川君をこの推薦枠にノミネートできるのじゃが、興味はないかね?」
「ほ、本当ですか?」
「もちろん推薦枠を確約するわけではない。じゃがもしわが校の知名度が上がり、受験者が増え、その結果偏差値が上がったら……それ以上の学校への貢献というのは、おそらくないじゃろうな」
僕はちょっと興奮していた。
僕はできればそのままエスカレーターで城京大学へ進学できればいい、と思っていた。
日本の私立大学のレベルは、早慶大学を筆頭に、その下にカソリック系の語学大学が2校、さらにその下に城京大学、宇和大学、野田島大学、江戸山大学、その頭文字をとって「JUNE」と呼ばれている大学群がある。
JUNEであれば、とりあえず就職には困らないと言われている。それでも僕にとってはレベルは低くない。外部受験では合格するかどうかさえ疑わしい。
そんなJUNEの一角である城京大学に、実質無試験・しかも授業料免除の恩典までついてくる。
喉から手が出るほど欲しい。
「もしチャンスがあるんでしたら、是非やらせてください」
僕はそう答えていた。
そしてなぜ校長先生が、僕にこの話をもってきたのか理解できた。
校長先生は、僕の家庭の事情を知っている。
僕の経済状況を心配してくれたんだろう。
本当にありがたい話だ。
「そうか、やってくれるか。では後日広告代理店の人を紹介しよう。教員の方でこのプロジェクトの中心となってもらうのは、波平……山田副校長先生だ。また別途ミーティングをやってもらうことになる」
今、波平って言ったよね?
「わかりました。ありがとうございます」
「うむ。また別途連絡がいくと思うが、頑張ってくれ」
「はい。頑張ります。失礼します」
なんとかこのプロジェクトを成功させよう。
僕の興奮はまだ続いていた。
だから部屋を出るときの、校長先生の言葉は全く聞こえなかった。
「ふぅ。瀬戸川よ、お前さんの息子は少し線が細いが、お前さんより優秀そうじゃぞ」
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