No.10:煩悩退散、煩悩退散……


 シャワーの音が聞こえる。

 すみかさんのボリューミーな体を想像する。

 決して細身スリムといわけではない。

 というか、かなりの巨乳の持ち主だ。

 それでもウエストがキュッと締まっていて、その下に丸みを帯びたヒップ。

 本人は足が太いって気にしているが、全然そんなことはない。

 むしろ色白で健康的な足だ。


 そんな女体が、いま全裸でシャワーを浴びている。


 だめだ。

 これはいろいろと、だめだ。


 僕は急いでテレビをつけて、ボリュームを少し上げた。

 それから勉強机に置いてあるPCのスイッチを入れる。

 Chromaで、意味もなくサイトを巡回する。

 Hなサイトを見たくなったが、それは全力で回避した。


 明日の天気をチェックした。

 よかった、明日は晴れマークだ。

 雨だったら、結構大変だっただろうな。


 カチャリとドアが開く音がした。

 それからドライヤーをかける音が続いた。

 蒸気を出すために、ドアを開けたんだろう。

 僕もいつも、そうやっている。


 しばらくすると、すみかさんが出てきた。


「お先に。ありがとね」


 そういうすみかさんの姿を見て、僕は息をのむ。


 きれいなダークブラウンの髪。

 顔はすっぴんだが、やはり地顔がいいのだろう。

 あどけなさが全面に出ていて、めちゃくちゃ可愛い。


 それからパジャマかと思ってたけど、着ているのは白の膝上ロングTシャツ一枚だ。


 もう、これがよくない。


 ややタイトめのTシャツなのか、胸の部分がパッツンパッツンなのだ。

 豊満な胸の形がはっきり現れ、ピンク色のブラのレースまでくっきり透けて見える。


 それにお尻の部分も張りがあるので、履いている下着が透けている。

 ピンク色の生地が、うっすらと上から見えてしまう。


「翔君、お水もらっていい?」


「あ、はい。冷蔵庫に浄水ポットが入っているので、自由にやって下さい」


 ありがと、と言ってすみかさんは冷蔵庫からポットを出した。

 コップに水を注ぎ、コクコクと飲む。


 僕からの視線を感じたのか、僕の方を向いて首を少しかしげる。


「あ、いや、なんと言うか、目のやり場に困るというか、目の保養になると言うか……」


 その言葉に、すみかさんは自分の体に視線をやる。

 そして少し顔を赤くして、膝上のTシャツの裾を下に引っ張った。


「もー、恥ずかしいから足は見ないで……」


 すいません、足は見てませんでした。

 全く見てません。


 僕は自分のシャワーの用意をした。

 それからクローゼットから自分の薄手のパーカーを出した。


「すみかさん、よかったらこれ着て下さい。なんというか、その、いろいろと目に毒なので……」

 そう言って、僕はパーカーを手渡した。


「そうなの? う、うん、ありがとね。私は大丈夫なんだけど、でも……足は見ちゃヤダ……」


 そういうすみかさんの胸とおしりを、僕はガン見していた。

 すみかさん、ごめんなさい。


 僕は急いでシャワーを浴びる。

 煩悩退散、煩悩退散……

 何の修行だ、これ?


 ドライヤーをかけおえて、部屋に戻る。

 すみかさんはテレビを見ていた。

 バラエティーが終わって、ニュースになっていた。

 僕はすみかさんの隣に座った。


「すみかさん、明日は何時に起きますか」


「うん、何時にしよっか?」


「8時ぐらいに起きて、朝ごはんとかどうですか?」


「……」


 すみかさんが、僕の顔を見てぼーっとしている。


「すみかさん?」


「え? あ、ご、ごめん。えーと、なんだっけ?」


「どうしたんですか?」


「い、いや、なんでもないよ」


「ぼーっとしてましたけど」


「えっ? う、うん。なんか……同じシャンプーのにおいがして、不思議だなーって……」


 今度は僕が赤面する番だった。


「そ、そりゃあ同じシャンプーですからね」


「う、うん、そうだよね」


「とりあえず8時起床で、朝ごはん。それでどうですか?」


「うん、わかった。そうしよう」


 僕たちは一人ずつ順番に歯を磨いた。

 横に並んで、一緒に磨くようなことはしなかった。

 当たり前だけど。


 僕たちはお互いのベッドに入った。

「おやすみなさい」「おやすみ、翔君」

 すみかさんは、すぐに眠ってしまったようだ。

 時折寝返りをうつ音と、「ん……」という吐息が聞こえる。

 僕はなかなか寝付けなかった。

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