第5話:あまりにも一方的な宣告
目の前の光景に、私はただ立ち尽くすしかなかった。
人間とは明らかに違ったうめき声に震えが止まらなかった。
それらはこの世界の存在理由そのものだ。
その姿かたちはこれまで何百回と見てきて見慣れていたはずなのに。
私自身、覚悟はとっくに出来ていると思っていた。
けれど、いざ大量のゾンビを目の前にすると、その場から一歩も動けなかった。
そんな私を尻目に『土生名人』と『べりさ』がゾンビの群れに突撃していく。
さっきまで敵対していたはずなのに、二人はお互いに背中を預けながら迫りくるゾンビを次々と撃退していった。
私にボーガンの矢を向けていた『べりか』も、いつの間にか私から離れてゾンビの居る方へと走っていた。
私だけが現実を受け止められず、置いてけぼり状態になっていた。
もうポイントがどうとかそういった次元の話ではない。
制限時間いっぱいまで生き残れるかさえ分からない。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
こんなの、残酷であまりにも一方的すぎるじゃない。
私が一体何をしたって言うの?
土生「『いのり』危ない!後ろ!」
『土生名人』の声でハッと我に返った私は恐る恐る後ろを振り向いた。
一体のゾンビが私の目と鼻の先まで近づいていたのだ。
間近で見る"本物"のゾンビに私はますます体が動かなくなってしまった。
『土生名人』たちの居る場所からはこのゾンビを撃ち抜くことはできない。
私はもう喰われるのを待つしかないんだ。
無抵抗な私に近づいてきたそのゾンビは、大きな口を開けてゆっくりと私に喰らいつこうとした。
ああ、私はここでゲームオーバーなのか。
脱力し、諦めきっていたその瞬間、どこからか銃声が聞こえ、目の前にいたゾンビの頭が吹き飛んだ。
何が起きたのか理解できずに立ち尽くしていた私は、ゾンビの体から吹き出す大量の返り血を浴びた。
その血はどす黒く、とても温かかった。
それが引き金となり、私の中で何かのスイッチが入った。
気がつくと私は群れの中に自ら突撃し、ゲームと同じ要領で次々とゾンビを撃退していった。
そして、再び我に返ったときには大量の屍の上に立って微笑んでいた。
井上「やってやる…絶対、BANなんてされるもんか」
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます