第4話:愚かなる人間たちへ

私たちを隠れて観察している人たちが居る。

何かを仕掛けてくるでもなく、ただじっとその場から動かない。

もしかすると、ゾンビを倒すギリギリのところで止めだけ刺してポイントを稼ぐ、いわゆる"ハイエナ"と呼ばれる人たちなのかもしれない。


土生「困ったね」


井上「ハイエナですかね」


土生「そうかもしれない。けど、問題はそこじゃない。相手がハイエナならポイントを奪われないように対応すればいいだけのこと。問題なのはこの場から容易には動けない今の状況だよ。時間は無限にあるわけじゃない。私たちには時間がないの」


井上「移動しないんですか?」


土生「ここはゲームの世界を再現したものだけど、きっと怪我だってするし、撃たれて死んでもリセットはされないんじゃないかな。万が一にでもあの人たちが私たちの命を狙っている可能性も捨てきれないからね」


やっぱり死んだらゲームオーバーなんだ。

そう思ったら余計に怖さが増してきた。


井上「けど、人間を倒してもポイントは入らないですよね?だったら、何のために…」


土生「ポイントは入らないけど、ポイントを無効にすることで蹴落とすことは出来る。これがゲームとは違う点だね。まあ、リアルに殺人鬼っていう可能性もゼロではないけど」


なるほど。この世界ではそういう勝ち方もあるのか。

極端なことを言ってしまえば、チーム以外の人間を全て倒してしまえばランキング1位は確定する。

今、下手に動いてしまえば私たちはゲームオーバーになるかもしれないんだ。

けど、時間は止まってくれない。

どうする?どうすれば…


土生「これを使うときが来たようだね」


そう言うと、『土生名人』はリュックから再び何かを取り出して見せた。


井上「え、それって、まさか!手榴弾ですか?」


土生「まあ、見ててよ」


『土生名人』はニヤリと微笑むと、二人組が隠れている柱に向かって手に持っていた物を放り投げた。


井上「え!ちょっと!何やってるんですか!」


私は慌てて地面に伏せた。

しかし、爆発音はしなかった。

『土生名人』が投げた物は発煙弾だった。

大量の煙に堪らず二人組の女の人たちが柱から飛び出してきた。

その瞬間を『土生名人』は逃さなかった。

一気に二人の元に駆け寄ると、その内の一人にショットガンの銃口を向けたのだった。


土生「あなたたちの目的は何?」


銃口を向けられている女の人は黙ったまま私たちを睨み付けていた。

もう一人の女の人も俯いたまま黙りこんでしまっている。


土生「じゃあ、あなたたちの名前は?」


二人ともまるで答えようとはしない。


土生「名前くらい名乗ってもいいんじゃない?それともこのままゲームオーバーになりたいの?」


『土生名人』が銃口をさらに近づけると、俯いたままだった女の人が慌てた様子で口を開いた。


??「私は…『べりか』。その子は『べりさ』って言うの」


土生「名前がそっくりだけど、あなたたちってこの世界に来る前から知り合いだったのかしら?」


りさ「だったら何よ」


土生「別に。普通にあり得る話だから聞いてみただけよ。で、どうして私たちを見張っていたの?」


すると、二人は再び黙りこんでしまった。

『べりか』と『べりさ』。

その名前には見覚えがあった。


井上「その二人、やっぱりハイエナですよ。何度かゲームで見かけたことのある名前なんで覚えてます。だから、別に私たちの命を狙っていたわけではないと思います」


りさ「はあ?あなたたちの命を狙ってるですって?このゲームではゾンビ相手にしか銃撃は当たらないはずよね。なのに、なんでそういう話になるのよ」


『べりさ』はひどくイラついた様子だった。

きっと彼女たちも焦っているのだ。


井上「あくまで私たちの仮説に過ぎませんが、この世界はゲームとルールが少し違っているように思うんです。実際、コントローラーを使って操作しているわけでもありませんから」


りさ「だったら撃ってみなさいよ!」


『べりさ』が向けられているショットガンの銃口を額に当ててみせた。

さすがの『土生名人』もこの行動に驚き後退りしてしまった。

その隙を狙って今度は『べりか』が持っていたボーガンを私に向けた。


りか「お願いだから…動かないで…」


『べりか』の声はひどく震えていたが、ボーガンの矢は震えることなく真っ直ぐ私に向けられていた。

誰かが引き金を引いてしまったら、止まることはできない。

どうして、こんなことになってしまったのか。

しばらくの間、硬直状態が続いた。


『面白い。人間はやはり愚かな生き物だ』


ん?なんだ?

遠くの方からうめき声のような声が聞こえる。

私たちは一斉に声のする方へと振り向いた。

そして、目の前の光景に私はゾッとした。

何十体ものゾンビの群れが私たちに向かってゆっくりと歩いてきていたのだ。


『さあ、ゲームを始めよう』



続く。

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