第3話:さ迷い続ける者たちよ

『土生名人』と話をしていて、私はある結論に至った。

テレビのニュースでやっていた世界中で多発しているというあの不可解な行方不明事件。

あれこそが今の私たちが置かれている状況そのものではないだろうか。

私たちと同じように時間を無駄にしてきた人たちが、次々とB.A.Nの世界に閉じ込められてゲームに参加させられている。

そう考えると妙に納得がいった。


私はもう一度、頭の中で状況を整理することにした。

ゲームから抜け出す方法はたった一つ。

最大5人で1組のチームを作り、制限時間になった時点で総合獲得ポイントでランキング1位になること。

チームは建物にいる"人間"であれば誰でも組むことが出来るし、自由に抜けることも出来る。

そして、肝心のポイントを獲得する方法は…

襲い来る"ゾンビ"を倒すこと。

つまり、居るんだ…

この建物に…本物のゾンビが。

ゾンビを倒すなんて、私に出来るだろうか。

ここはゲームの世界だけど、感覚としては限りなく現実世界に近い。

コントローラーなんてないし、私自身の能力が全てだ。

当然、痛覚だってある。

何より最悪なのは、武器を持っていないこと。

今、ゾンビに襲われでもしたら私には戦う術がない。

この世界がゲームを完全に再現したものだとすれば、ゾンビに噛まれた人もゾンビになってしまう。

ゾンビになった場合、チームを離れることになるため、それまでに獲得したポイントはチームの総合ポイントからは引かれることになる。

しかし、ゾンビになったプレイヤーを他のプレイヤーが倒した場合、ゾンビになる前のポイントが相手に付与される。

ゲームならたとえゾンビになっても時間になればリセットされるけど、この世界でゾンビになって倒されたらどうなるの?

倒されなかったとして、時間になれば人間に戻れる?

それとも、ゾンビとして永遠にこの世界でさ迷い続けるの?

考えれば考えるほど疑問は尽きなかった。

そんな私の様子を察してか、『土生名人』は持っていたリュックから何かを取り出した。


土生「これを使いなよ」


そう言って手渡してくれたのはサブマシンガンだった。


井上「え?でも…」


土生「私にはこれがあるから」


『土生名人』は背中に背負っていたショットガンを構えて見せた。

ショットガンは彼女が一番得意とする武器だった。


井上「ありがとう…ございます」


土生「お礼なんていいから。それよりさ、気づいてる?さっきから私たち、誰かに狙われてるよ」


井上「え?」


『土生名人』の視線の先に物陰に隠れて私たちをじっと見つめている誰かが居るのが分かった。


井上「もしかして、ゾンビ?」


土生「いや、ゾンビなら隠れたりなんて人間らしい行動はしないはず。それに…」


井上「それに?」


土生「一人じゃない。二人組だ」


その相手が人間だと言うのなら、ひとまず安心していいのだろうか。

ゲームでは人間同士で攻撃し合うことは出来ない。

けれど、この世界では違うかもしれない。

その場合、私たちの命を狙うのはゾンビだけではないということだ。


??「あの二人、私たちに気づいたようね」


??「…うん」


??「さあ、あなたたちはどう動く?」



続く。

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