7
放課後、私は倉科先輩へ宣言した通り、駅にいた。
帰宅部たちのラッシュを見送って、人通りがまばらになった駅前を一人でうろうろと歩き回る。
しかし、昨日も来ているのだ。何かが見つかることは、望み薄だろう。
やはり何もないかと諦めて立ち去ろうとした、その時だった。
「え――?」
ふいに顔を上げた、その先――ぽつんと佇む、一人の女生徒が見えた。
学園の制服。瞼の上で切り揃えられた前髪。胸元まで伸びた黒髪。
遠目だったけれど、それでも私は目が離せなかった。
戦慄が走る。
「――まさか……」
あれは、私――? 似ているどころではない。まるで瓜二つだ。
信じがたいけれど、あそこに立っているのは、私のドッペルゲンガーなの?
そんな……ドッペルゲンガーは、本当に存在したの?
先輩は、ドッペルゲンガーを本人が見たら死ぬって言っていた。
もし本物なら、その話が本当だったなら、どうしよう――怖い。
ああ、狐崎会長はこんな思いを抱いていたのか。
まさかという思いだけでは、打ち消せない不安。
どうしようもない不快さと憂いを感じて過ごす日々。
それが、どれだけ悩ましかったか。
どれだけ、彼女を苦しめたか。
「許さない……絶対に、許さない!」
突如上げた大声に驚いたか、ドッペルゲンガーが慌てて背を向け駆け出す。
私は、更に声を張り上げた。
「神代先輩!」
「あたしから、逃げられるとでも?」
言いながら、どこからともなく神代先輩が現れる。
ポニーテールを揺らしながら全力疾走で駆け抜けていき、あっという間にドッペルゲンガーの背を捉えた。
「捕まえた!」
ドッペルゲンガーに馬乗りになっている神代先輩の元へ駆け寄る。
一見すると、私の体を神代先輩が襲っているように見えるので、頬が引きつった。
「観念するんだな、この偽者!」
じたばたと、逃れようと暴れているドッペルゲンガーの髪を掴み、剥ぎ取る神代先輩。
ウイッグの下から現れた姿に、私は驚きの声を上げた。
「どうして……」
「これが、ドッペルゲンガーの正体だ。やはり君だったのだね、狸塚さん」
顔を見られて観念したのか。大人しくなったその人は、狸塚先輩だった。
ようやく追いついてきたらしい倉科先輩が、呼吸を整えながら、私の隣に立つ。
「え、でも、どうして狸塚先輩が? だって、ドッペルゲンガーの相談投書があるって持ってこられたの、狸塚先輩ですよね? 昨日公園で逃げたってことは、関わっていることを知られたくないはずなのに……」
「それは、本人に直接確認するとしよう。彼女が謎の犯人であることをね。美化委員の委員長として、掃除を実行する」
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