そのせいもあるのだろう。あっという間に私は彼女に撒かれてしまい、姿を見失ってしまった。

「は、ハトちゃん……突然、どうしたのかな?」

 後ろから、息を切らせた倉科先輩が追いついてくる。

 この人、本当に体力ないんだな……。

「さっき、誰かが私たちのことを見ていたんです。目が合った途端、逃げたので気になって……」

「顔を見たということかい?」

「それが、遠くてぼんやりとしか……同じ制服を着ていたのは、間違いないです。女子でした」

「学園の生徒か……何かを知っているとみて、良いかもしれないね」

「やっぱりそうですよね……ああ、せっかくの手がかりだったかもしれないのに、逃がしてしまうなんて……」

 関係ない人ならば、逃げないはずだ。だったらあの人は、きっと何かを知っているのだろう。

「でもあの背中……どこかで見たような気がするんですよね」

 誰だっただろうか……思い出せずにもやもやする。

「制服を着ていたのなら、それだけで知っている誰かではないかと錯覚してしまうのかもしれないね」

「そうかもしれませんね……」

 言いながら二人で公園へと戻ってきた。入り口のところの垣根。ここで怪しい彼女が私たちを見ていた。

 その場に立ち、先程まで私たちがいた場所へ目を向ける。

 ここからでは、きっと彼女は私たちの顔など判別できなかっただろう。

 しかし、隣のこの人は違う。顔など見えなくとも誰だかわかるというものだ。

 何せ、制服の上に白衣を着ているのだから。

 そんな人物、倉科先輩以外にはいない。

 であれば、向こうには私たちが誰なのかがわかっていたことになる。

 その上で逃げたなんて……。

「あれ? これは……」

「どうかしたのかい?」

「ここに落ちていました」

 足元で転がっていた、キーホルダーを手に取る。

 それは、ブーメランの形をした物だった。

 ここに到着した時は見なかった。もしかして、これ……。

「さっきの人が落とした物じゃ……」

 カバンが垣根にぶつかっていたのを、確かに見た。がさりと大きな音がしていたのだ。間違いない。

 であれば、可能性は大いにあるかもしれない。

「このキーホルダーを持っている学園の女生徒、か……」

 思案顔の倉科先輩が纏う雰囲気は、どこかいつもと違って真剣で。

 私は、そんな彼へと声を掛けることがどうしてだか憚られて、できなかった。

 いつの間にか、公園で遊んでいた子どもたちはいなくなっていて。

 夕日が影を伸ばす中、私は木々を揺らす風の音を、ただ静かに聞いていた。

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