「いや、もうダントツ人気で憧れられているのも納得ですよね。歳が二つしか違わないなんて、信じられないです」

「同性の心をも射止める優雅さと芯の強さ。誰に対しても平等に接するために、彼女の好感度は遙かに高い」

 うんうんと隣で聞いていて頷く私。

 だが「しかし」という先輩の言葉に、緩んでいた顔が戻った。

「誰もの心を掴むような人間は、存在しない。法則に当てはまらなくなるからね」

「法則、ですか?」

「人間関係もそうだけれど、二対六対二なのだよ」

「アリの話の時の……じゃあ、二割が仲良くなれて、六割が普通ってことですか?」

「そう。ハトちゃんは物わかりが良いね。話が早くて助かるよ」

「いえ……ということは、残りの二割は――」

 窺うように先輩の顔を覗くと、彼はやはりいつもの笑みを浮かべていた。

「そう……どうしたって、相容れない人がいるものだよ。それが人間というものだ」

 理解できない。許容できない。好きになれない……。

 あの狐崎会長に対しても、そういうふうに思う人がいるとは信じがたい話だった。

「どうしたって、そういう人を生まないなんてことはできないよ。いくら排除しようが新たに生まれるのだからね。だから、きっとこの学校内にもいるのだろう。表には出ていないが、彼女を疎ましく思っている人間が」

「じゃあ、今回の話ってもしかして、そういう人が狐崎会長を困らせようとして起こしたことかもしれないんですか?」

「さあ……どうだろうね。その可能性も捨てきれないというところかな」

 あんないい人を困らせようだなんて、どうして思えるのだろうか。

 それも自然の摂理という理由で、簡単に片付けられてしまうのか。

「それで、先輩。今度は、どこへ向かっているんですか?」

 ただただ先輩の後をついていくように歩いていたが、今度はどこへ行くのだろうか。

 調査に向かうと言っていたが、ドッペルゲンガーの調査なんて、いったいどこでできるのだろう?

 とはいえ、先輩の足取りはまっすぐ目的地を目指しているように思える。

 しかし、これまた皆目見当もつかない。

 相談主はわかったけれど、何があったのかがわかっただけだ。

 未だ何のヒントも得られていないことに、変わりはない。

「そうだね。まずは荷物を取りに教室へ。それから、ショッピングモールまではさすがに無理だけれど、目撃のあった駅と公園へ行ってみようと思っている」

「目撃現場にですか?」

「何かがわかるかもしれないからね」

 そう言って、楽しそうに歩いて行く白い背中を追う。パートナーである私は、ただただ彼に従うのだった。

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