「集団心理だよ。顔の見えない匿名性。その上、皆もやっているという安心感。そこから起こる錯覚……しかし、三割も掃除に関する投書があったとはね。結果は良い方だと思うよ」

「そういうものなんですか?」

「二割あれば良いと予想していたからね。ほら、二対六対二だろう? いくら僕でも、美化委員がどう思われているかは、わかっているつもりだよ。八割は悪戯されると思っていた」

「……」

「悲しそうな顔だね、ハトちゃん。もしかして、すべてが要望書だと思ったのかい? 君は、本当にいい子だね」

「私は、そんなんじゃ……」

 言い淀み俯くと、頭の上に優しく手のひらが置かれた。

 その手はとても大きく温かくて、どこかほっと安心してしまった。

「じゃあ、そんないい子のハトちゃんに一つ、お願いがあるのだけれど」

「お願い、ですか?」

「ああ。今から僕に付き合ってもらえるかな? ドッペルゲンガーの調査をしたいのだけれど」

「え――」

 私はぱちくりと瞬きをして、そうして改めて思い知るのだった。

 この倉科将鷹という男は、美化委員の仕事に積極的な、優秀な二割で。

 そして法則の六割に位置する私を引っ張る、パートナー様なのだということを。

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