そんな高嶺の花のごとく近づきがたい彼女だが、しかし口を開けば四六時中、朝昼晩と超常現象の話ばかりという、根っからのオカルト好きで。好奇心が歩き回っていると言っても、過言ではないらしい。

 常識が欠如している自由人で、いつもどこか怪我をしている。

 彼女に目をつけられると、怪しげな儀式や実験に巻き込まれてしまうと聞いた。

 それが、残念美人と言われる、十七歳。高校三年生。

 つまり先輩である彼女こそ、関わってはならないと言われているもう一人の人物、神代かみしろアウルだった。

「やあ、フクロウちゃん。遅かったね」

「あん? その名で呼ぶんじゃないって何度言ったらわかるんだ、この変人」

 そしてこの二人は、それぞれが独自で既にトラブルメーカーであるにも関わらず、揃うと誰の手にも負えなくなるという、学園の問題児コンビなのだった。

 始業式すら、この二人が原因で予定より遅れて始まり、巻きで進行された。

 しかしその理由は、事件でも暴力沙汰でも何でもない。小学生がするような、ただの口喧嘩だったらしい。

 意外と平和な人たちなのかもしれないと思っていたのだが……しかし。

「あわわ……」

 とはいえ、こんな私以外誰もいない場所で、それこそ喧嘩なぞ始まってしまったらどうしよう。

 止められないどころか、私なんて巻き込まれたら、怪我で済むのかどうか。

 もしかしたら、始まったばかりの高校生活、今日で終わるかもしれない。

 そう私が怯えていると、救世主の登場か。再び扉が開かれた。

 廊下から姿を現したのは、担任の数学教師、猫田先生だ。

 どうやら美化委員の今年の担当は、彼女らしい。

 なんと神々しいのか。私はその女神の姿に、泣きそうになりながら感謝した。

「さあ、皆さん。鍵は開いていますよ。いつまでも廊下に立っていないで、中へ入ってください。時間です。始めますよ」

 彼女の声掛けによって、いったいどこにいたのか。ぞろぞろと生徒たちが、重い足取りで会議室内へと入ってきた。その表情は、誰もが沈鬱だ。

 どうやら、彼らは皆到着していたにも関わらず、入室を避けていたらしい。

 ずるい……私も今頃、その群衆に紛れているはずだったのに……。

「全員揃いましたか? では、始めたいと思います」

 猫田先生の声に、しんとなる室内。しかし私の胸中は、穏やかではなかった。

 今にも心臓が破裂してしまいそうなほどに肥大し、バクバクと鳴っている。

 これはきっと、錯覚じゃない。だってこんなに大きな心音は、今まで一度も聞いたことがないから。

 理由は単純明快。疑いようもなく、明らかだ。

 前方の席には、倉科先輩が。そして何故か、隣には神代先輩がしれっと座っているからである。

 いつの間に、こんなことになっていたのだろうか。だらだらと冷や汗が額や背中を埋め尽くさんと、溢れてくる。

 長い足を組んでいる神代先輩からは、ほんのりと良い匂いが……じゃなくて!

 どうして、この二人が私のすぐ近くにいらっしゃるの?

 というか、この二人ってば仲が悪いはずなのに、どうして近くの席に座るのかな?

 そもそも、どうして同じ委員会に所属しているの?

 誰か、この状況から私を助けて……。

 パニック寸前の頭で心の声を捲し立てながら、今にも泣きそうな自身をぐっと堪えて、辺りをそっとチラ見する。そうして気が付き、愕然とした。

 深く考えるまでもない。それはそうだ。私だって、逆の立場ならばそうする。

 私の座る席の周りには、例の二人以外。誰一人として、人間がいなかった。

 広い会議室内。席がたくさんあるこの場所で、誰もが離れた場所――それも出入り口付近に固まって座っていた。

 私はこの二人に近付いてしまった挙げ句、他の委員メンバーからは、同情の視線を一身に浴びていたのだった。

 おかしいな……私も、あの群衆の中の一人であるはずだったのに……。

 遠い目をしながら視線を前に戻すと、猫田先生が壁に設置されたホワイトボードに、文字を書き終えたところだった。

「では、第一回目の今日は、委員長と副委員長を決めたいと思います。委員長と副委員長には、今後の活動での指揮や会議の進行などをしていただくことになります。基本的には三年生に務めていただきますが、二年生、一年生でももちろん構いません。立候補者または、推薦したい人がいれば挙手をしてください」

 猫田先生の言葉に、静寂が降る。誰もが目を逸らしていた。きっと心の中では、祈りを捧げているに違いない。気まぐれな運命の女神の悪戯など、美化委員になったことだけで十分なのだから。

 おそらく、この二人以外の人たちは、私を含め誰もが漏れなく、泣く泣くこの場を訪れた人間だろう。

 だというのに、その上委員長なんて、やりたくないに決まっている。だって、この二人の上に立たなければならないから。そんなのは、悪夢だ。

 そう考えていると、目の前からすっと手が上がった。

「では、僕が」

 手を上げたのは、倉科先輩。心のどこかで、やっぱりという思いが去来した。

「三年の倉科くんですね。委員長への立候補と捉えて、差し支えないでしょうか?」

「はい」

「他の人は、どうですか? 誰もいませんか? 倉科くんが委員長になることに対しての異議申し立てでも、構いませんよ」

 猫田先生、何ということを言うのだろうか……ここで手を上げる猛者など、この場にはいないだろう。

 唯一可能性のある隣の美人も、こういうことには興味がないのか。腕を組み、つまらなさそうな顔をして黙っていた。

「異議もないようですね。では、委員長は倉科くんにお願いします。続いて、副委員長を決めましょう」

 とんとん拍子に決まった委員長。しかし、ここからが問題だった。副委員長が決まらない。

 誰もが目を逸らし、息や気配さえ押し殺すレベルだ。

 時計の針がカチコチと、秒を刻む音だけが響き渡る。

 時間だけが過ぎ、なかなか動きがない中で、一つ息を吐いた先生から、いくつか提案が上がった。

「推薦したい人もいませんか? であれば、倉科くんに決めていただくか、あるいは、そうですね……くじ引きで決めるしかないでしょうか。倉科くんは、どう思いますか?」

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