人気者の君たちへ
あーく
人気者の君たちへ
僕は小説を書くのをやめた。仕方がないことだった。周りに求められていないのだから。
高校時代、三人は同じ文学部だった。
「ねぇ、何読んでるの、って――え?それ漫画?」
「うん、今人気の『魔人ブラック』っていう漫画。人間の闇の部分を指摘して、更生させていく魔人の話。」
「うーん………私にはちょっと難しそう。」
「おっす!何読んでんの?って『魔人ブラック』じゃん!単行本持ってるんだ!今度全巻見せてよ!」
「うん、いいよ。」
「私はパス!」
「ハルカは恋愛脳だからな。」
「リュウこそラノベしか読まないじゃん!もっと文学作品読みなさいよ!」
「だって難しい言葉ばっかでわかんねーんだもん!だろ?」
「うーん、僕も絵があった方が読みやすいかも………。」
「え~!?だったら漫研行きなさいよ!」
「だって俺絵描けねーし。」
「僕も。」
「もう………、しょうがないわね。」
みんな好みは違っていた。ハルカは恋愛小説、リュウはライトノベル、僕は小説ですらない漫画。けど、みんながみんなの好みを認め合っていた。そして、みんな本が好きだった。
「決めた!私、小説家になる!」
「どうしたんだよ急に。」
「私も読んでいる人の心を動かす作家になる!」
「なら、俺もライトノベルを書く。いや、目標は原作として漫画化、そしてアニメ化だ!」
「じゃ、じゃあ僕もだ!」
「みんな頑張ろうね!」
こうして、みんなの夢は始まった。
あれから高校を卒業し、一年が経った。最初に夢が叶ったのはハルカだった。SNSの仲良し三人組グループにハルカからメッセージが送られてきた。
「『週刊スプリング』の連載が決定しました\(>∀<)/」
「やったぜ(*´∀`*)b」
「おめでとう!」
納得の理由だった。ハルカはこの中で一番の勉強家だ。色んな文学作品を読み漁ったり、色んな文章の勉強したりしているのは知っていた。僕も嬉しくなって、全く興味がない芸能ニュースだらけの週刊誌を初めて買った。
そして、また一年が経った。次はリュウの番だった。
リュウは一言で言うと天才肌だった。物語をどう展開すれば盛り上がるかを計算ではなく、感覚で書いていた。文学作品ほど語彙力はないものの、簡単な文章で読者を湧き上がらせるほどの感性は鋭かった。
二人は人気になったのに、僕は――。
僕も約束したあの日から小説投稿サイトに投稿していたが、無力感に襲われて小説を投稿するのをやめた。
当然だ。元々漫画が好きな僕が小説なんて書けっこない。絵が描けないから字で勝負、なんて甘い話ではない。僕はそっとサイトを閉じた。
それから何ヶ月経っただろうか。漫画喫茶で漫画を読んでいると、どんどんアイデアが出てくる。しかし、僕には文才がない。
漫画を元の位置に戻し、ため息をつくと、帰りがけにあるライトノベルが目に入った。
『転生したものの村の周りのモンスターが強すぎて全く進めない件について』
著:龍昇也 絵:新島たいが
忘れていた。小説家になると誓ったあの日を。いや、実を言うと小説家になれるかどうかは気にしていなかった。ただ、頭の中にある僕のアイデアを見てほしかったんだ。
僕はすぐさま本屋を出て、自宅へ駆け出した。PCを開き、思い出したように小説投稿サイトを開いた。すると、新しくメッセージが届いていることに気付いた。
作者への応援コメント
――――――――――――――――――――――—
うさぎ
作風に個性があって、私は好きです!早く次の話が読みたいです!
龍昇也
どの作品も読みやすいです!小説に慣れていない初心者にオススメ!
春風
私も小説を書いているのですが、作品一つ一つのアイデアが斬新で、いつも参考にしてもらっています!
―――――――――――――――――――――――
これを読んだ時、目の奥から湧き上がるものを感じた。自分はこのままでいいのかと悩んでいたものが一気に吹き飛んだ。
大勢の人に認められなくてもいい。自分を応援してくれる人のために書こう。
僕は急いでサイトに書き込みをした。
近況報告
―――――――――――――――――――――――
しばらく作品の更新がなくて驚いた人もいるかもしれませんが、充電が完了しました。
これからもバリバリ書いていくので、よろしくお願いします。
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人気者の君たちへ あーく @arcsin1203
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