篠原美園

俺は手帳を開き、先程控えた篠原美園の電話番号をスマホに打ち込んだ。

「もしもし?」

優良企業の事務員並に早い段階で電話に出てくれたが、登録されていない番号のせいか、声のトーンが低い。

「突然のお電話申し訳ありません。警察官の小牧と申します」

「警察!? 何かありましたか?」

俺は彼女の驚いた声を聞いて、違和感を覚えた。被害者は65歳だから、彼女も同じぐらいの年齢だと思っていたのに、声だけで判断すると三十代か、もっと若く感じた。

「中井透さんを御存知でしょうか?」

「は、はい。私の知人の父親だと思います」

「えっ?! 知人の?! 学さんとは友人関係ですか?」

「えっと……恋人です」

「こ……恋人……そうなんですね。失礼しました、本題に戻ります。今日、父親の透さんがお亡くなりになりました」

「えっ?!」

「ビックリされたと思いますが、殺された可能性もあります」

「殺された?」

「篠原さんが透さんと最後に会ったのは、いつでしょうか?」

「……えっと、一ヶ月程前だったと思いますけど……」

「そうなんですね。その時、透さんに変わった様子はありましたか?」

「いえ、特には……」

「そうですか……。因みに、今日は、お出掛けになられましたか?」

「今日は午後2時に、タクシーで中井さんのお宅へ行きました。学さんから来て欲しいと連絡があったので」

「学さんから?」

「はい。でも、ドタキャンされたので……。少し待っても連絡がとれなかったし、学さんの原付も無かったので、タクシーを呼んで帰りました。2時半ぐらいだったと思います。青山タクシーを使ったので、確認してもらえれば分かると思います」

「御丁寧にありがとうございます。では、後程連絡させてもらうかも知れません。何か気付いた事がありましたら、この番号へ連絡お願いします」

「分かりました」

「それでは失礼します」

俺が電話を切るのを見て、日吉が話す。

「どうですか?」

俺は電話での内容を日吉へ伝えた。


「じゃあ俺、青山タクシーに確認をとります」

「おう、頼んだ」


日吉が電話を掛けている間に、家の方を見ると、青いポリバケツが置いてあったので、気になり少し眺めた後、離れへ目を向ける。離れの周りは土になっているようだ。家から離れまでは5メートル程度。今日、20分程、強い俄雨にわかあめが降ったうえに、救急隊員やら警察官の足跡で、地面がぐちゃぐちゃになっている。

日吉が電話を終えた時、先に着いていた警察官の先輩、斉藤が話し掛けてきた。

「小牧さん、被害者に掛けられていた保険金の5000万円ですが、受取人が篠原美園になっているようです」

「えっ?!」「何だって?!」

俺と日吉は顔を見合わせる。日吉が悪そうな顔で俺に話す。

「篠原美園が午後2時から犯行を行なった可能性が高まりましたね」

「まだ、何とも言えない。とにかく、第一発見者の家政婦さんと話がしたい」

「分かりました。呼んできます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る