事件現場

日吉の運転に揺られ約20分。ようやく、事件現場に到着した。少し人里離れた場所で、周りには、建物が何も無い。パトカーが既に1台停まっているようだ。車を降り、玄関まで行くと、表札には「中井」と書かれてある。家に目をやると、築20年以上は経っている様に見え、大きめで金持ち風の佇まいだ。さらに、10坪弱の離れは、最近建てたものなのか新しく見える。

俺達に遅れて鑑識のメンバーが来ると、写真を撮り始めた。最初に到着していた警察官2人の先輩、斉藤から、俺達は状況を確認した。

被害者は中井透なかいとおる65歳男性。既に、救急車で病院に運ばれており、病院で死亡が確認されたとの事だった。第一発見者は、この家の家政婦、葉多三枝子はたみえこ69歳女性。彼女が午後1時に昼食後の食器を離れへ取りに行った時には、透は生きており、午後3時に、おやつのオハギとお茶を持って離れへ行った時、透が頭から血を流して倒れているのに気付き、救急車を呼んだとの事だ。


事件現場は一戸建ての隣に建てられた離れで、死因は鈍器の様な物で後頭部を複数回殴られた為のようだ。凶器はまだ見つかっていない。部屋が荒らされていないので、物取りの犯行では無さそうとの事。争った形跡が無いので、顔見知りの犯行ではないかという見解だ。


被害者の妻、聡子さとこは先月、病死で他界しているので、家族は一人息子のまなぶ30歳のみ。学はミステリー小説家の卵で、昼食後の午後1時過ぎに家政婦へ出掛けてくると告げた後、連絡が取れていない。学が所有する原付バイクも無いようだ。家政婦の話によると、被害者透と息子学は、かなり仲が悪かったらしい。

被害者のスマホ発信着信履歴には篠原美園しのはらみそのの名前が頻繁にあったが、先月辺りから徐々に減ってきて、今日は無いとの事。


日吉が近寄って来て小声で話す。

「中井透ってミステリー小説家らしいですよ」

「そうなのか? 聞いた事無いな」

「俺も知らないですけど、そこそこ売れてるみたいです」

何故か、日吉は自慢気に話してきた。有名人の知り合いが出来たみたいなノリなんだろうか?

さて、雑談はここまでにして本業に入ろうと思った時、日吉から話し出す。

「息子、学の犯行で決まりですか?」

「まあ、普通に考えればそうだな。事件後、行方をくらましているし・・・」

「そう言えば、息子もミステリー小説を書いているみたいです。小説投稿サイトにアップしてるとか。何かトリックを使った殺害方法を思いつきそうですね」

「いやいや、アリバイも無いし、最有力容疑者になっているのにトリックも何もないだろう」

「確かにそうですね。あと、自殺って可能性もありますよね? ミステリー作家らしく、他殺に見えるようにして・・・」

「かなり難しいが、可能性としてはあるだろう。その場合、仲の悪い息子を犯人に仕立てあげるという事になりそうだが、そうなると、遺産を全て渡す事になる。嫌いなヤツに遺産を渡すような事をするだろうか?」

「そうですね。篠原美園はどうですか?」

「連絡をとってみないと分からないな。今から電話を掛けてみよう」

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