第2話

マユケンー白夜ー②


 ネオンが光る中に一際輝くモノが有りそうで何となくフラフラしている。夜に生きている。暗闇の方が前だけを見て歩いて行ける。余計なモノも余計な感情も他人に気を使うことも無く生きていける。

 知った顔が声をかけてくる。男も女も適当に遇う。他人に興味は無いアレを持っている奴が居れば相手にするが誰もアレを持っていない。溜息をつきながら家路につく、途中でスーパーに寄ってお菓子コーナーへ行く、今日はウィスキーを呑みながらチョコが食べたい気分だ。

 チョコレートを選んでいると昨日の母親が近づいてきた。

「こんばんわ、昨日はすいませんでした」

俺は軽く頭を下げた。

「こんな遅くまでお仕事ですか?」

「はぁ…まぁ」

何となく母親のかごを見ると生クリームといちごが入っていた。

「子供の誕生日ですか?」

「あ、いえ、明日の予約用の材料が足りなくて買いに来ました」

「ケーキ屋さん?」

「はい…」

「遅くまでご苦労さんですね」

「いえ、段取り悪くてたまたま遅くなっただけです」

「身体に気を付けて頑張ってください…では、失礼しますね」

「あ、ありがとうございます。失礼します」

ワタシは足早にレジへ向かう男の人の後ろ姿に頭を下げた。


 それから事あるごとにスーパーで男の人と会う機会が多かった。普段行かない時間に会うこともあって不思議だったー。

 卑屈な心が無くなっていた。リコが大事…だけど言うことを聞かないと頭に来る。リコに対しても自分の感情を殺す。


 何故かスーパーに行くとあの母親に良く会う。荷物が多いときは何となく大変そうだから車まで持ってあげるくらいになっていた。

 そして、薄暗い駐車場でも母親の優しい笑顔はハッキリと見えていた。


 男の人は無表情に荷物を車まで運んでくれた。お礼を言うと煙草を咥えながら直ぐに帰ってしまう。


 夜空が真っ白になり夜なのに明るい白夜ー。

「今度、ケーキでも買いに行こうかな…」

パーキングの車に鍵を差し込むと三人の男に囲まれて何発もの銃弾が俺の身体を貫いたー。

 明るい夜空を見上げながら…何となく「あぁ、死ぬまで生きる…でも、微かな光がなんなのか…なんだったのか……」目を瞑るとスーパーで買い物している家族が見えた。真ん中に小さな女の子が居てパパとママが微笑みながら小さな手をしっかりと摑んでいるー。


 あぁ…知りたかったのってコレかな…アレってコレの事だったのか…もう遅いけどな…


 ワタシはリコとスーパーへ向かっている。今日はあの男の人に名前を聞いてコレを渡そう。助手席のリコがショートケーキの入った小さな箱をニコニコしながら大事そうに持っている。

 赤信号から青信号へ変わりワタシはアクセルを踏んで前へ進んだー。


 明るい夜だったー。


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マユケンー白夜ー 門前払 勝無 @kaburemono

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