番外編・ライバル令嬢の願い事
私が願った事は、世界を変える事。何度も何度も繰り返す、この世界。
愛する人と、別れなければならない、悲しい運命。
それは違う時もあるけれど、私は全ての彼を自分のモノにしたかった。一度だって、他の人に渡したくない。
だから、神様に願った。彼を、私だけの彼にしたい。
例え彼が、普段はすごく出来る人なのに、たまに馬鹿で、虫が苦手で、少しぬけてて、変なところで突っ走るような人でも。私は、そんな彼だから、愛している。心から。
だから、ね?
絶対に、変えてみせる。この世界を。彼との運命を。
私は、今までの姿ではない、とても変わった姿で、神様にお辞儀をする。スカートが短く、髪色も違う。
「よろしくお願いします」
「うん。頑張ってね。あ、この二人も一緒にそっちに行く人達だよ。仲良くするといいかもね」
真っ黒で真っ直ぐな髪を肩より少し下で揃えている、同い年位に見える女の子。美しい真っ黒な髪、まるで彼を奪うヒロインのようなそれに、心が惹かれる。もしかして、私が黒い髪だったなら、違った未来だったのかな。
もう一人は、少し茶色っぽい黒の短い髪の男の子。少し難しそうな顔をしている。
「この二人は?」
私が神様に問うと、二人から声が上がる。
「――アナスタシアよ。たぶん」
「……グリード」
二人は、愛する人を悩ませる存在のヒロインと、彼と幼なじみの魔術師の名を名乗った。
二人も何か願いがあったんだろうか。
彼女もまた同じように、願った? 彼を、自分のモノに?
「私は、アルベルトを自由にしたい」
彼女の口からは、信じられない言葉が出た。
「だから、一緒に頑張りましょう。エリーナ!」
◇
ある出来事のせいで、髪を真っ黒に染めた。
出来上がったと言われ、確認の為に見せられた鏡に写る姿は私の理想の色だった。一緒にストレートパーマというのもあてた。
見た目がだいぶ変わったので、この身体の持ち主には悪いことをしたかもしれない。
「エリナちゃん、いいの? 浮かない?」
身体の持ち主はエリナという名前。その彼女の母親が尋ねてくる。
「はい、とても綺麗な色だと思います」
「そう、ならいいけど」
こんなに簡単に容姿が変えられる。魔法みたい。
◇
「エリ? どうしたの、その髪」
「エリナ! まさか失恋?」
エリナの学校に行くと二人の【学校の友達】が聞いてきた。
「そうそう。アイツがさー」
染めた理由は失恋ではないけれどそう言った方が説明が楽だと思い、エリナの記憶にある最近喧嘩したという相手の事を言うと、二人のうちの一人がとても嬉しそうに笑っていた。
実際、相手からまだメッセージは何度かきている。ただ、嫌がっていたようなので、私はこの身体の記憶を頼りに、行動した。
◇
「上手くいってる?」
サトウナホという人物になったアナスタシアが連絡をいれてくる。グリードは、ナナセヒロキという人物になったそうだ。状況を報告しあうため、こちらも新たに連絡先をもらった。
「大丈夫。そちらは?」
「こっちはね、――」
少しだけ大変そうだ。
◇
「エリナ!」
ある日、一人で歩いている時に、エリナが嫌がっているアイツに出会った。
「黒い髪、そっちの方が似合ってる」
「あの、何でしょう?」
「何度もメッセージいれてるだろ? もう一度」
相手が何か言い出そうとしていたけれど、だっと、私は走り出す。人の色恋に、必要以上に手を出してはいけない。この子の世界は、私と違い、やり直せないのだから。――それに、私は、元の世界に戻る。彼の元へ。だから、気を付けないと。
全力で逃げていると、眼鏡をかけた大きな身体の男の人にぶつかってしまった。
「あ、すみません。私――」
「俺の願いの相棒。その相手か」
「え?」
「すまないが、少しだけ手伝ってもらえないか? あなたもゲームの世界からきているんだろ?」
彼は、こちら側は名無しでいいので、メッセージを入れられるように登録して欲しいと言ってきた。
「わかりました」
同じように、ここにきて、何かしているという彼を手伝うという意味で、登録しておいた。
◇
「彼女だけ、記憶の補てんはしない?」
「だって、その方が面白いでしょ? どうやら、ボク意地悪な神様らしいからさ。平等にエリナちゃんにも意地悪しようかなって。あはは、大丈夫。彼女ならさ」
そう言ってふふふと、怪しげに神様は笑う。
「もともと、彼女はそこまで強い願いじゃなかったからね。本当に純粋に、たった一つしかない位に珍しい宝物が欲しいだったから。他の人達と違ってさ」
「そうなのですね」
あの人の連絡先を入れてしまったのは失敗だったのだろうか。
「さてと、ライバル令嬢エリーナ、戻ったらまたすぐに最初からだから、きちんとその髪も元に戻るし、安心しなよ」
私はずいぶん軽くなった自分の髪を撫でる。
「私もむこうで色々したので、お互い様でしたのに」
髪飾りに手があたり、そっと撫でる。今だけしかわからない、彼女のたくさんの
二人が上手くいくといいですね。
隣に立つ、緑色の髪の大きな男に一礼して、私は愛する人の元へと駆け寄った。
「アルベルト様、貴方は誰にも渡さない。私だけの王子様――」
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