私の見つけた宝物

「エリナさん! 来てたんだ。ごめんね、お取り込み中でした?」

「あ、いえ、その、少し……」


 ダイスケは顔を押さえながら、片付けを始めていた。唯の分のお茶を用意してるのかな。


「私、もう少しゆっくり来れば良かったね」

「全然、だいじょう――」

「あ、もっとお取り込みだったかも?」

「唯、お茶!」


 真っ赤な顔をしたダイスケが、唯の前に紅茶を置く。


「二人とも真っ赤。もしかして、全然まだ進んでない?」

「ゆーいー!」

「ごめん、ごめん。でも、お兄ちゃん、ちゃんと捕まえておかないと、エリナさん、絶対モテるからね。うかうかしてると、すぐさらわれちゃうよ」


 カラカラと唯は笑う。すごく可愛い笑顔で。

 ダイスケと違って唯は小さくて、私と同じくらいの身長。少しだけ、私の方が小さいのは悲しいところ。写真を見せてもらったら、二人の母親に似た顔姿だった。ダイスケは父親似。


「あ、そうだ。これ、薫君から」


 そう言って、お菓子とジュースをどんどんと机に置いていく。


「一緒にくればいいのに、下で待ってるって。あ、そうか、邪魔になるからってこういうことだったのか」


 そう言って彼女は、にひひと悪戯っこみたいに笑う。


「最近、お兄ちゃん達あんまり話してないんじゃない? むこうの家にも顔を出さないし」

「大学生でも忙しいんだ。暇なわけじゃないぞ。それに――」

「それに時間があったら、エリナさんだもんね」


 わかってますって顔をしながら、唯は紅茶を飲み干すと急いで立ち上がり、玄関に向かう。


「生存確認しましたので私は撤退します。ご武運を!」

「あー、いいから、はやく薫のところに行ってあげろよ」


 ダイスケは手ではやく出ていけとしている。


「またね、お兄ちゃん、エリナさん!」


 手をふりながら、パタリとドアをしめて、唯は帰っていった。


 あの後、ダイスケとカオルがどんな話をして、どういう結論にいたったのかはわからないし、聞いてない。だって、これはカオルの問題だから。


「いいの?」

「薫が言わないなら、俺も話す事はないかなぁ」

「そっか」

「薫は唯との関係は変わらない事を望んでるから――。だから、わざわざ俺が壊す事をしたくない。香澄さんも、無理をさせちゃ駄目な時期だからね」

「うーん、難しいね」


 部屋の中に戻ろうとして、見えた彼の背中が少し寂しそうだったから、私はぎゅっと後ろから抱きついた。


「わわっ、何を?」

「ぎゅーだよっ!」

「急に何故?!」

「そこに背中があるから!」


 大きな背中越しに感じる彼の体温と鼓動。

 ダイスケは私の両手をポンポンとしてからきゅっと掴んだ。


「ほら、晩御飯の準備するから、買い物にいこう?」


 私は名残惜しく思いながら、手を離し、彼の背中から離れる。


「あのスープが食べたい!」

「……最初に作った?」

「うん」


 元気良く頷くと、彼は任せとけって言って嬉しそうに笑った。


 ◆


「あはは、彼女の願いが実現するとは、驚いたなぁ」


 あのゲームのメインビジュアルが変わっている。銀色の魔術師と黒髪の乙女の恋物語。

 メインヒーローだったはずの王子は、すでに婚約している。改変されたゲームでメインヒーローになった魔術師の親友役だ。王子の横には幸せそうに笑う水色の女の子。

 そして、このゲームの続編は、家出姫と幼馴染み、ダブルヒロインの選択制。


「面白いなぁ。願いの力って、本当に――」


 ボクはゆっくりと部屋の中のたくさんの画面を見る。


「せっかく生まれたんだから、皆幸せになって欲しいよね――。さて、次は誰にしようかなっと」


 次々に生まれる物語ストーリーを眺めながら、ボクはいい相手を探す。きっとこの子達なら最高のゲーム、最高の幸せを紡いでくれると願って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る