好きと大好き

 思い出した。あの時の男だ。でも、今さら何の用だろ? スマホは見つかったのよね?


「それで、私に何か用ですか?」

「あ、その、――。髪型変わったんですね」

「何……、当て付けを言いたかったの? 別に言われたから変えたわけじゃないし……」


 私の顔が不機嫌に変わったせいだろう。目の前の男は、言おうかどうしようか悩んでいるみたい。

 アルテを探さなきゃいけないのに、ありがとうも言ったしもう行ってもいいよね。やっぱり、家の近くにいた方がいいかな? はやく戻らなきゃ。もしすれ違ってしまったら、嫌だ。だから、これ以上他の人に時間をとられたくない。


「もう行ってもいい? 私、探さなきゃいけない人がいるの。約束してるから」


 そう言って、歩きだそうとすると、腕を掴まれた。あれ、でも痛くない。すごく軽く、掴んでる?


「俺…………、絶対に負けられないヤツが現れたから、ソイツに持っていかれる前に、急がないとなんだ」

「え――?」


 そのセリフ、聞いたばかりの言葉。


「アイツに負けたくない。俺だけど俺じゃない。アイツには――」

「あの……」

「佐々木絵理奈さん」

「はいっ」


 フルネームで呼ばれ、返事をしてしまう。


「俺もエリナって呼んでもいいですか!」

「え? 意味がわかりません」


 悲しそうに眉をさげる真面目君。


「うぅ、そろそろわかって……。すぐに会いに行くから、待ってろ」

「え……? えぇ?!」

「月城大輔です。ゲーム名はアルテ――」

「?!?!?!」


 キャラ違わない? 喋り方も違いすぎだし、それに――。

 頭の中で、またたくさんの私が必死に彼とアルテを繋げようとするがエラーばかり。だって、全然違う。あ、身長だけは似てるかもしれないけど……。そう、彼も大きい。まあ、アルテよりは低いのかな?


「やっぱり、俺では、アイツに勝てないですよね」

「ちょっとまって、私、私は!」


 そっと握られていた手を離されたので、私は掴み返す。


「私はアルテを外見で好きになったわけじゃないんだから!」


 途端、赤くなる月城さんアルテ


「だけど、その、まだ混乱してて……」


 だって、イメチェンどころの話じゃないよ? 見た目も感じも本当に別人だもの。


「それに、その……、私むこうでアルテに好きだって言えてなかったし……、だからアルテが、す――、好きかどうか聞けてないし」


 そこまで言って、両手をぎゅっと握られた。


「俺、好きです。エリナが。大好きです」


 握られた両手と頬と耳が熱くなる。


「あの日から、エリナの事忘れられなくて。ずっと、探してて――。きちんと謝りたかった。気持ちを伝えたかった。ただ、俺、こんなだし、出会い方最悪だったし、勇気が出なくて……。何度も何度も言いそびれて。でも、やっと言えた。エリナは? 俺じゃ駄目ですか?」

「ちょっと……言い方が、……ずるいよ。私は……」


 ぱっぱっと手をふって、両手を自由にする。そして、背伸びして、彼のほっぺたをぐにっとつねった。


「まずは、ナホを振った分」


 ぐいーっと伸ばす。


「私、まだ呼び捨てを許可してない分っ!」


 ぱっと手を離して、後ろを向いた。真っ赤な顔をこれ以上見られたくない。


「むこうではありがとうございました。月城さん。でも、知ってると思うけど、私はこんなだからさ、お嬢様でもない、美人でもない……」

「勘違いしないで欲しい。俺はエリナさんが好き。エリーナじゃない、リリーナでもない。あの日、見つけた、エリナさんが好きなんだ。俺と付き合って下さい」


 本当に、私でいいの?


「私、……エリナでいいよ。面倒なんでしょ。あとさ、教えてよ。私の知らないこといっぱい。まだ月城さんのこと私は、全然知らない」

「俺も、月城さんじゃなくて、……アルテでもなくて、ダイスケがいいな。話すよ。だから、俺の事知って欲しい。もう、俺の事全然知らないなんて言わなくなるぐらい」

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