こっちの私と

「まって、まって、どういうこと?!?!」


 少しして、彼が会いにくることを思い出し、私は身支度をしようと鏡の前に立った。その鏡に写る私。まっすぐに伸びる黒い髪。長さはそんなに変わってないけど、ストレートになった分長く見える。そしてもう一度言おう、――――とても黒い……。

 顔は私で間違いはない。何がどうなってるの?

 これじゃあ、月城さんアルテ、私だってわからないよね……。でも、今からなんて……、染めたりなんかしてたら……。


 いなかったって、思われる? って、あの人、私の家、知ってるの? いやいや、まって、それじゃあ、ストーカーじゃない?

 私が困り頭を抱えていると、スマホが鳴った。


「――――駅の噴水広場に今から行く」


 そんな表示が出ていた。

 私は髪の事は置いておいて、急いで用意する。そして、そのまま勢いよく外に飛び出した。きっと、会える。そう思って。


 ◇


「は、何でアンタなの?」

「エリナが可愛いくなったのが悪い」

「何言って……」


 駅に現れたのは、別れたアイツだった。自分の思い込みと勘違いが嫌になる。私のスマホに、月城さんが入ってるわけなかったのに、勝手に彼だと思い込んでしまった。


「やり直そう。なっ? ここに来たってことはオレの事がまだ好きなんだろ?」

「だから、言ってるでしょ! もう、こっちからお断りだって!!」


 私が好きなのはもう、あなたじゃないの。私、あの人を見つけたんだから……。

 がしりと腕を掴まれて、離してくれない。男の人の力って、やっぱり強い――。怖い――。

 ただの痴話喧嘩に見えるのだろう。誰も助けてくれない。そう、他人事に首を突っ込む馬鹿はいない。前だって……。


「おいっ! 嫌がってるだろ! めろよ」


 前言撤回します。突っ込む馬鹿がいた。

 黒い髪、眼鏡をかけた、どうみても真面目君キャラの正義感からかな――。


「お前には関係ないだろ、離せよ!」


 私の手を掴んでいたアイツの手を真面目君が掴んでいる。

 そんなに筋肉質な体つきではないけれど、腕の力は強そう。


「関係ある――。俺は今から彼女に用事があるからな」


 …………、いや、誰ですか? あなた。


「ちなみに知り合いに頼んでスマホで撮影させてもらっているからな。もし、このまま続けるなら――」


 アイツがばっと手を離したからか、真面目君も手を離していた。


「後悔しても、もう付き合ってやらないからなっ」


 そう言って、アイツは手を押さえながら逃げるように走って行った。


「お断りですよーっだ!!」


 べーっとしていたら、助けてくれた真面目君に笑われた。

 そうだ、お礼を言わないとだった。


「ありがとうございました。絡まれてるところを助けにきてくれて。怖かったので、すごく助かりました」


 ペコリとお礼のお辞儀をすると、真面目君は頭をポリポリとかきながら、話しかけてきた。


「あの、俺は――」


 あれ、そうだ。私、この人、前に一度見たことが――。どこだっけ?


「あの、前に一度会いませんでした?」


 ぱっと嬉しそうな顔を浮かべる彼。まるで、お散歩に連れていってもらえるわんこみたい。


「俺の事、覚えてますか!」

「あ、えっと……、あーーー! 間違えました男!!」


 がくりと膝が折れる音がした。

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