私が悪い?

 少しして背中の痛みがましになり、私は声をようやくだせた。


「……ナホ……?」

「本当はこんなことしたくないんだけど、エリナちゃんが悪いんだよ?」


 悲しそうな顔をした、アナスタシアナホはアルテの胸に体を寄せる。


「こっちを向いて。アルテ様。私だけを見て」


 アナスタシアにそう命令され、アルテの顔が彼女の顔に近づいていく。

 いやだ、やめて……。何でそんな事を?


『エリナさんも、一緒にきた人に憎まれたり恨まれているとかないですか?』


 頭にカオルが言った言葉がよみがえってくる。恨まれていた? 何で?


「お願い、やめて……。ナホ……」


 私の目から涙が溢れてくる。私は何故、今こんなのを見せられないといけないの? どうして……、私、あなたにそんなひどいことしたの?


「はなして、ねぇ、いやだぁぁぁぁ!!」


 アルテのもとに行きたい。止めたいのに、動けない。私が動かせるのは口だけ。嫌だと叫ぶことだけ――。

 目の前で、二人の距離が零になる寸前だった。


「エリーナ様っ!!」


 突然、扉が開き、人が飛び込んできた。銀の髪の魔術師グリードだった。

 急な訪問者に、アナスタシアは振り向き、視線を向ける。


「腕輪の魔法かっ!!」

「グリード様?」


 誰かを理解した彼女は、グリードへと腕輪を向け呟いた。


「下がれ、ザイラ! その方を傷つけるな」


 何事もなかったようにグリードはザイラのもとへと行き、魔法ではなく物理で私を押さえつけていた彼を蹴りとばした。

 自由になった私はその場に座り込む。

 アナスタシアを見ると、目を見張ってグリードを見ていた。


「どういうこと…………。だって彼は前に……」

「アナスタシア様、話が――」

「ルディアス!」

「はっ」


 アナスタシアが誰かの名前を呼ぶと、フードを被ったローブの男が現れて、彼女を包み込んだ。そして、つぎの瞬間にはそこから姿を消していた。


「探さなきゃ……ツキシロ君……どこ……?」


 アナスタシアが消える瞬間、確かにそう言っていた。

 ツキシロ君って、アナスタシア、あなたはもしかして、ツキシロを知っているの? 探さなきゃ? カオルを? それとも……ダイスケ?


「大丈夫か?」


 ヒールの魔法をかけられながら、私はグリードに頷く。手で涙を拭いとり、立ち上がる。


「アルテ!」


 アルテの元へと行き、下から顔を覗き込んだ。彼の金色の瞳が虚ろで、何もうつしていない。


「アルテ? ねぇ、アルテ?!」


 体を揺すってみても反応がない。頬をぺちぺちと叩いてみたけれど、変わらない。ずっと止まっている。

 グリードは、ザイラにも魔法をかけた後、こちらへと歩み寄ってくる。そして、教えてくれた。


「魅了の魔法だ……。何と言った?」


 何って……。アナスタシアは確か、


「「私だけを見て」と……」

「……なるほど」

「ん、あれ。グリードいつの間に戻ってきて……、あれ? オレいったい何を……?」

「ザイラは軽くかけられただけだったようだな」

「あの……」


 なかなか事態が飲み込めず、私はもう一度アルテを揺すってみた。もちろん結果は変わらなかった。

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