あなたは?

「おかえりなさい」


 ザイラが出迎えてくれる。


「ただいま」

「今日は、どうでした?」

「今日は、目的のものは見つかりませんでした。でも――」


 そんな会話を交わしながら、家の中に入ると、なんだか、甘い香りが漂っていた。今日の晩御飯はもしかして、焼き菓子か何かのデザート付き?!


「デザートもあるんですか?」

「ありますよ! 今日はですね」

「おい、今日は俺が」

「あ……」


 そうだ、担当制にしようと決めていたのに、ザイラは作ってしまったようだ。


「すみません」

「あ、いや。すまん。作ってもらっているのに」

「つい、手持ち無沙汰ぶさたで」


 お互いにペコペコ謝り合戦だ。


「……城に行く」


 二人が謝っている様子を見て、グリードは定期報告か何かをしに城へ行ってしまった。


「はやく、食べよう! お腹空いちゃった」


 実際、お腹がぐぅぐぅ元気に大合唱している。これは、食べたらご飯が体に染み渡るーって感じだね。絶対。


 ◆


 飛んだ先は、個人に与えられた部屋。ペコリとこの部屋付きの侍従じじゅうがお辞儀する。

 そこから、歩き主のもとへと向かった。


「……まだ戻ってない」


 どうやら、主はまだあそこにこもっているのだろう。どちらが、はやく終わるのか。


「グリード様」

「……クロネ」


 困った顔をして、クロネがこちらに歩いてきた。


「アナスタシア様がいらっしゃらないのですが、ご存知ありませんか?」

「アナスタシア様が?」

「はい……」

「知らないな……」


 ある程度の報告をクロネに任せ、エリーナを思い浮かべ、転移魔法を使う。

 アナスタシアはいったいどこに行ったのだろう――。


 ◇


「ナ……アナスタシア……様」

「ご機嫌よう。エリーナ様」


 そこには紅茶を優雅に飲む、黒髪のヒロインがいた。


「ルミナス様に、ぜひこちらに遊びにきてほしいと誘われまして」


 かちゃんと小さな音をたて、ソーサーにカップを置いた彼女はこちらを見ながらゆっくりと微笑む。


「ご迷惑でしたか?」


 突然すぎる訪問に私は戸惑う。確かに、何とかしようとは思っていたけれど……。


「ねぇ、ザイラ様」


 アナスタシアがザイラに腕輪を向ける。いったい何をするつもりだろう。

 ザイラのいる方向をみると同時に彼に引っ張られアルテと引き離される。そのまま、私は壁に押し付けられた。


「いっ……たぁ……」


 彼の力でがっしりと、壁に縫い付けられた私は背中に受けた衝撃に少しむせる。


「おい、ザイラ! 何を」


 アルテが腕を伸ばし、ザイラの肩を掴もうとするがそれを止めるようにアナスタシアが腕輪のはまっている手をアルテに向け命令した。


「動かないでもらえます? アルテ様」


 アナスタシアの声に、アルテの動きが止まる。


「あれ? 今回は、効いている……?」

「……ナ……ホ…………」


 私は必死にアナスタシアナホに呼びかけるが声にならない。彼女は何でだろうと首を傾げながら、動きの止まったアルテの目の前に行き、そっと彼の大きな体に触れていた。


「違うのかな……? もう一人の方? ねぇ……あなたは――?」

「ナホ……、何を……」

「……エリナちゃん。この人のこと好き?」

「なっ……」


 いきなりの質問に私まで、止まってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る