聞いていた?

「こいつはな、中に別人がいるんだ」

「…………」

「アルテ! 何を言ってるんですか!」

「いや、そうだろ。実際」

「そうだけど」


 ちんぷんかんぷんなこと言って、ほら、どう見てもグリード固まっちゃって困ってるよ。これは。


「グリードさん、あのですね」

「グリードもある程度聞いてたんだろ? 扉の向こうで」

「…………」


 えっと、聞いてた? 私は考える。いつだ? 昨日は全然話せなかったよね。私が二、三度首を捻っているとアルテが呆れながら笑って言った。


「いや、普通にわかるだろ。ソフィーが来た時、向こう側の声が聞こえてただろう」

「あ……」

「…………」

「向こうが聞こえるんだ。逆も聞こえてるだろう」

「そうなんですか?」


 おずおずとグリードに聞くと、彼は少し考えつつも首を縦にふった。どうやら、本当に聞かれていたみたい。


「……そうか、やはり。あそこにいた全員?」

「今は、俺達だけだ」

「…………」


 グリードの無言が続く。何か考えているのだろうか。少しして、考えがまとまったのか、彼は視線を上げて、まっすぐにこちらを見て言った。


「……では、元に戻すことが最優先で。……やり方は、あの時の言葉で間違いはないか?」

「あぁ」

「……もしかして、アナスタシア様も?」


 私はびくりとする。見られるだけで焼き付きそうな赤い瞳の視線が突き刺さる。


「あの……」


 そうだ、私達はこの国の大事な二人を乗っ取っていることになるんだ。私は、わざと婚約破棄させるようなことを、アナスタシアは魅了を使って、人を操っていること。こんなことが許されるわけがない。体が彼女達のものだから、もしかして見逃されているのだろうか。


「ごめんなさい、私もアナスタシアも最初はここがよく知っているお話の夢だと思っていたんです」

「…………やはり、彼女か」


 グリードはそう言うと、赤い目を閉じて、視線をアルテに向けた。あれ? もう追及は終わり?


「あのな、俺達はここの神様ってヤツに引きずり込まれただけだからな。戻れるならさっさと戻りたいんだ」

「……あぁ、そうだな。わかった。……ただ、その体の主に迷惑がかからないように行動してくれ」


 それだけ言って、グリードは大きく息を吐いた。


「わかってます」


 これ以上、この子が考えている未来から、離れないようにしなきゃ。改めて私は決意する。


「やったー! ダブルで発見!」


 って、ちがーう!!

 未発見の宝物だけど、違うの! 今、私が欲しいのは。


「これで、あと2種見つければエリナの願いももうすぐ叶うのか?」

「……え?」

「ほら、前にハンターキングとかコンプリートとか言ってなかったか? あれが、エリナの願いじゃないのか?」

「あ! そうか。私の方の願い!」


 帰る条件、願いを叶えるって言ってたよね。じゃあ、私はお宝コンプリートさせないとなのかな。この世界に来たいだけじゃないってこと? わからないや。でも、叶えておかないといざ、帰るぞって時に帰られないと大変だよね。


「じゃあ、これもラッキーなのかぁ」

「なんだ、嬉しくないのか?」

「う……、ううん。嬉しいよ!」

「明日も、また頑張ろう」


 かかっとアルテが笑う。

 私、もっとしっかりしなきゃ。色々しなきゃいけないことがある。そうだ、アナスタシアも向こうに帰るために、相方を探さないとじゃない。もしかしたら、アルテの相方がアナスタシアかもしれないけれど……。それなら、私の相方を……?


「って、あれ、明日もいいの?」

「先にこっちを済ませないと色々不便だろう。ハイエアートのやり込みはむこうですませてる」

「じゃあ、お願いします」

「おう」


「エスケープ」


 そうだ。はやく戻れるように、頑張ろう。そう心に決めて私はぎゅっとアルテの手を握った。

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