呼び方
◆
「これを、渡しておいてくれ」
「はっ」
「グリードは……」
「はい?」
「いや、なんでもない。エリーナは元気か?」
「はい、とても元気にしていらっしゃいますよ」
「そうか……」
やはり、彼女は優しい。人助けをしていたんだな。
僕の勘違いだった。そうだ、僕のことをあれだけ愛していたんだ。あたり前じゃないか。取り戻さなくては、どんな手を使っても! もうすぐ迎えに行くから待っててくれ。僕のスイートフェアリー!!
「マルクス、シロナ! 行くぞ!」
僕は二人を連れてとある場所へと向かう。
◇
「っはー、疲れた」
「はは、もう日付が変わりそうだな」
私とアルテは普通に戻ってきて、グリードは報告に行きますと魔法でたぶん城に飛んだ。
「おかえりなさい。何か食べますか?」
夜も遅いのに、ザイラが笑顔で出迎えてくれた。あぅ、むこうで食べてきてしまったから、罪悪感が。
「あの、向こうでたくさんいただいたので、ごめんなさい」
「いえいえ、それなら、お茶でいいですかね」
「あぁ、ありがとう」「ありがとうございます」
ザイラがキッチンへ向かいその後をゆっくりと追いながら、ふと、思い出す。
「あ、神様! 戻ってきてないかな」
「あぁ、そうだな」
「アルテってば、わかっててあんな風に言ったんだよね」
じとりと睨むと、はははと笑って誤魔化された。
「だってなぁ、この世界じゃない場所って言ってわかるか? へんなヤツがいいとこだろう」
う、確かに私もそう考えてたけどさ。
「そうだけど」
「先に寄ってみるか」
手を引かれ、
「どこに行っちゃったんだろう」
「エリーナ様! アルテー!」
どうやら、お茶の用意ができたみたい。ザイラが私達を呼んでいたので、ここをあとにして向かった。
「へぇー、それは大変でしたね」
「そうなんですよ!」
「最終の門ではどんな試練だったんです?」
「あ、それは……」
「俺も気になるな。どんなだったんだ?」
「う……」
向こうの国で何があったか話していると、私はやらかしたことに気がつく。言えない!! これは言えない!!
「は、話してはいけない規則なのです!」
「そうなのか」
「代々そう伝えられているそうですね。隣国の謎に包まれた最終試練。聞けると思ったのになぁ」
代々?! 皆恥ずかしいから言わないのね……。きっと。
なんだか、メイラがぺらっと喋ってしまいそうだけれど。
「それじゃあ、寝るか」
お茶を飲み終え、シャワーを浴びて、寝室に向かう。
「あのさ、……」
「なんだ?」
「月城さんとか大輔さんって呼んだ方がいい?」
「あー、いいよアルテで。ゲームの名前がこれだったから違和感ないしな」
「そういうものなの?」
「そうだな」
かかっと笑いながら、アルテは続ける。
「エリナはエリナだったんだな」
ぐは、そういえばバレてしまったんだった。
「悪い? 私はゲームこれが初めてだから、なんてつければいいかわからなかったの。それでエリーナって」
「あー、エリーナがキャラ名だったのか。ルミナスとメイラは使ってた名前じゃなかったからな。リアルの名前だと思わなかった」
「あれ、そうなんだ」
「あぁ、二人とも違ったからなぁ。覚えるのに苦労した」
何が違ったんだろう。そういえば、
「そっかぁ」
「エリナはエリナでいいのか?」
「あ、えっと、あー……」
そこで返されると思っていなかった私は思考停止してしまう。いいよね、うん、だって本名だし。
「……エリナでいいよ」
「そうか」
優しく笑うアルテをまっすぐ見れなくて、私はふぃと視線をはずしてしまった。アルテのリアル……、月城大輔、どんな人なんだろう。
寝室に到着し、扉をあけるとそこには、ザイラとグリードがいて、手をふっていた。
「あ、エリーナ様。遅かったですね」
扉をばたりとしめて、アルテと二人で目を合わせる。
「なにあれ」
「さぁ?」
もう一度あけるとやっぱりそこに二人いる。壁側にしっかりと寝床を用意していた。
寝室にいっぱい人がいるのって、なんだか修学旅行みたい。まさか、枕投げが始まる?! って、違う違う。
「あの、グリードさん?」
「間違いが絶対に起こらないようにとのことなので、見張らせていただきます」
あ、そうですか。今まで何もなかったし、私はそこまで気にしなくなっていたけれど、他人の体なんだ。絶対じゃない以上はエリーナの為にもその方が安全かな。
「わかりました。よろしくお願いします」
私は、半分ほっとして、半分残念って思っていた。
このメンバーじゃ、月城大輔やユイ、カオルについて、アルテに聞けなくなっちゃったなぁ。
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