嫌いです

「ホークさん」


 まっすぐにこちらを睨む彼女は、真剣そのもので、譲る気はなさそうだ。


「あなた、ルミナス様の事、お慕いしているのですよね?」


 ズバリと、メイラが言ったーー! いくら本人ルミナスがいないからと言って、ばらしていいものなの?


「それがなんだ」


 ハラハラする私とは対照的に冷静にホークは動かず答えた。


「私が妻になりましたら、あなたもルミナス様の花嫁になりません?」

「は?」


 ホークが嫌な顔をする。


「よくわかった……、私はあなたも嫌いです」


 まあ、そうなるよね。彼女の火に油を注いだ気がする。何で、メイラはこんな事を言い出すのだろう。


「ソフィー様がお妃になられましたところで、ルミナス様を本当に愛すると思っておいでですか?」


 ピクリと、ホークが反応する。


「ルミナス様のお幸せを願うのは、私とあなただと、思っているのです」

「……」

「ソフィー様は、ルミナス様をただの飾りにしか思っていない。ルミナス様はそんな方と結ばれて欲しくない」

「……それだけか」


 剣を下ろす事なく、ホークは睨み続ける。そんな彼女を見ながら、メイラはニヤリと綺麗な顔に小悪魔的な笑みを浮かべた。


「なので、全力でお相手いたしますわ!! サンダー!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「くぁぁぁぁぁ」


 あれ、サンダーってヒロインの得意魔法よね? あれ?

 じゃない! ヤバい、人に使ったら……!!


「ご安心下さい、しびれて動けなくする、すたんがんくらいの威力ですわ!」

「え」


 何、スタンガンって。魔法を弱くして使ったってこと?


「あっちの世界で持っていましたの! びっくりしましたわ。びりびりして」

「あ……」


 実際、目の前の三人はしびれて立てないぐらいで外傷はほぼなさそうだ。器用……、応用力まであって、すごいなぁ。

 そうか、メイラもまた、ゲームをやっていたユイが中にいたから、もしかしてゲームステータスを引き継いでいたりするのだろうか。最強のお姫様、爆誕……。


「くっ……、卑怯な……」

「あら、三人のお強い方々が脆弱な私達に剣をむけるのは卑怯ではないと……」


 にっこりとメイラは笑うと、ホークの持っていた剣をすっと拾い上げ、他の二人の剣は蹴り飛ばした。


「先ほどのお誘いは、私本気ですから、もしその気になりましたら、私からこの剣を奪い返して下さいな」


 そう言うと、メイラは次の扉のある場所へと続く道を進み始めた。


「あ、メイラ様待って下さい」


 私は恐る恐る、横を通り抜けメイラを追いかけた。


「持ってきてしまったけれど、邪魔です」


 ぶつぶつと文句を言っているメイラは、ため息をつきながら剣を私に渡してきた。何故!?


「彼女も素直に伝えられるような国にしたいですね。向こうのように自由な恋ができるような」


 そう言った彼女は、懐かしいものを思い出すようにして笑っていた。

 あの、向こうの世界は、自由恋愛ですが基本お嫁さんは一人ですよ。まあ、こっちと常識が違うだろうから突っ込まないけど……。

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