銀髪の魔術師

「…………」

「おい!」

「…………」


 扉を何度も叩き、何度も呼び掛けたが反応がない。確かめるために扉を開けてみようとするが、鍵がかかっているのか押しても引いても動かない。


「出歩いてるのかねぇ」


 ポリポリと頭をかきながら、アルテが困っていた。


「また会った時でいいよ」


 私はそう言った。それに、少し思うことがある。神様ユウがこの世界はゲームで、私はこの世界の人間じゃないって話して、アルテにそれが知られたら、どう思われるのか。


「そうか、幽霊だからな。掴み所がなくて、困ったヤツだが悪いヤツじゃない」

「うん」


 知ってる。神様だし、願い事を聞いてくれただけなんだよね。

 ゲームの世界に行きたいなんて……。お願いしてしまったから。

 悪気なんて全然無さそうな無邪気さだもの。

 ユウの部屋をあとにして、オヤツでも作るかと、ここのキッチンへと連れていかれる途中だった。


 コンコンコン


 玄関口から、音がする。お客様? それとも神様がおかえりなさい?


「誰だ、きたばっかりだってのに? ルミナスか? でもまだアイツは――」

「アルテもわからないの?」

「うーん、まあ出てみるか」


 そう言って、二人で玄関に向かった。

 扉を開けるとそこには、「エリーナ様」と、一言言ってペコリとお辞儀する男性がいた。銀色の髪と赤い瞳の、魔術師グリードだった。


 ◇


 突然のお客様で紅茶だけのティータイム。優雅に紅茶を飲む、銀色の魔術師。ティーカップを持つ指には赤青黄色といろんな色の宝石の指輪がはまっている。

 メインヒーローに負けずとも劣らない美貌の持ち主。魔法が使えるから、ゲームの時はメインヒーローより多く組んでトレジャーハントに行っていたなぁ。


「アルベルト様より、護衛するようにと承りました」

「そういや、何か言ってたな。あの王子」

「え、まって? 筆頭魔術師様ですよね? それが何故私のようなただの婚約解消された者のところに……」

「エリーナ様、まだ貴女様はアルベルト様の婚約者。正式に婚約解消しておられません」


 あーーーーーーっ!! 何でっ?! 待って、どういうこと?

 私は驚いて、額に手をあてながら考える。あの日、アルベルトは確かに婚約やめようかって言ってきたよね?


「あれ程愛し合って、望まれて、婚約されたのです。お二人のご両親が、一時の感情で決めてはならないと、止めておられました」


 よほど悩んでいる顔をしていたのだろう。グリードが詳細を教えてくれました。あー、そうか。うーーん。

 何だってぇぇぇ!? ここであの親が、まさかの婚約解消阻止!

 あれ? 父親、アルベルトとの結婚は賛成だったの? いや、今はどうでもいいことか! 大事なのは、そう、私は――。


「つまり、エリーナ様はまだ、アルベルト様のご婚約者です」

「――そうですか」


 どうしようという気持ちと一緒に、どこかホッとする気持ちがあった。これは、エリーナライバル令嬢の気持ち……?


「それで、気になっているのですが、その手は……」

「これは――」


 私が説明しようとすると、アルテが頭を下げていた。


「すまないが、少し事情があったんだ――」


 アルテは、私と出会った時からの事を、グリードに話していた。幸運の腕輪の話を信じてくれるかなと思っていたけれど、彼はすんなりと受け入れていた。


「そうか、不思議な力を持つ腕輪……」


 少し、考えるような素振りをしていた。私がそんなものを持っていたことに何か引っ掛かったのだろうか。

 これは、私の家の地下に隠されていたもので、家出の資金にしようと――じゃあ、もっと前からつけていたし、うーん。よし!


「幸せになりたいと願っていたら神様があらわれて、これを賜りました」


 うん、これなら嘘じゃない。


「神様……。しかし、なくすと不幸になるなど、悪魔の仕業かもしれない――」


 あ、確かにあの神様、小悪魔的な感じはある。


「事情はわかりました。お優しいエリーナ様の事です。見捨てる事が出来ないのですね」

「あ、えっと――」

「御身はアルベルト様の大切な想い人であることを努々ゆめゆめ忘れぬよう行動して下さい。もう一つの腕輪を見つけるまで、お供します」


 …………。


「えぇぇぇぇぇ!?」

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