ご来店。カツ、注文入ります!

「あの…………」

「いいか、僕の手で必ずエリーナを救ってみせる! それまで絶対に手を出すなよ!!」

「あの…………」

「エリーナ! 言わなくてもわかっている! すまなかった! そんなにも僕の事を愛していたんだね。美しかった髪をそんな風にしてしまうとは」

「あのぉ……」


 昨日に引き続き、本日はまさかの王子様アルベルトがご来店です。お店じゃないけど。


「レースで僕が勝ったらエリーナは諦めろ!」

「……はぁ」


 アルテの口からは、私と同じく言葉が出てこないようだ。


「いいな!!」

「あの…………」

「愛を証明してやる! いくぞ、クロネ」

「はっ」


 突然、嵐のようにあらわれたアルベルトはクロネと呼ばれた女性とともにハイエアートに乗って去っていった。


「何だったんだ、昨日のアレといい、今日のアレといい」

「ごめんなさい……」

「いや、リリーナのせいではないだろ。だが、この国はなかなか面白いのが上に立つんだな――」


 そう言って、アルテは頭をポリポリかいて呆れていた。

 うーん、アルベルトってあんな感じだったっけ? メインだから流石に覚えてるけれど、しっかりした人で、頭もよくて、完璧な人だったはずなのに……。

 力に目覚めたヒロインと目覚めなかった婚約者ライバル、悩みに悩んで選んだ。だからこそメインストーリーの王子様だったのに。

 何が彼を変えてしまったのだろう。

 …………、まさか、どちらからも愛されなくなる選択はゲームのシナリオになかったから、――なんて。


「リリーナ?」

「あ、ごめんね。今日は私がホットケーキ焼いてみる!」

「お、そうか。しかし、あれだな。移動を急がないと面倒な事になりそうだな」

「あ……」


 そうだ、アルベルトは、何と弟王子クレスヘラに聞かされたのかわからないけれど、無理に連れ戻すつもりはなかったようだ。でも、父親にここがバレたら――。くる! 絶対に連れ戻しに!


「アルテ様」

「ホーク、何で止めなかった?」


 ホークが小さく頭を下げる。


「私が受けた命令は、殺されないようにとのことで、先程の二人からは殺気は――」


 はぁーと大きくタメ息をつき、アルテは下がれと手で命じる。

 今ホークは「アルテ様」って言っていた。もしかしてアルテは隊長とかだったりするのかな? それとも、まさか、アルテも……?


「リリーナ」

「はいっ」

「考え事してると焦げるぞ」

「あ、そうだね」


 ◆


「クレスの言った通りのようだな」

「はっ」

「僕に婚約破棄された傷心の彼女を騙し、レースで勝ち、我が妹も手に入れ、この国を乗っ取るつもりだ」

「はっ」

「彼女の目を覚まさせるには、僕自身がレースでアイツに勝ち、目の前でもう一度愛していると告げなければ」

「はい!」

「クロネ、アナスタシアのところにいくぞ」

「…………はっ?」


 クロネの返事に何故か疑問符がついていたような気がするが僕は、ハイエアートに魔力を注ぎ、急ぎ城へとむかった。


 ◇


 今日で練習は終わりだ。少しはやめに切り上げあとはルミナスに整備してもらう。


「どうする、景気付けにカツにでもするか!」


 カツって。まあ、日本のゲームだからげんかつぎも普通にあるのかな? なんだか、ちょっと笑ってしまう。


「揚げ物って油がはねそうで怖いなぁ」

「ん、慣れりゃあ、そうでもないぞ。大丈夫。俺の分だけやってみろ。あとは俺がするから」

「う、うん」


 ポタリと落としたパン粉からパチパチと小さな気泡があがる。


「そーっと入れるんだ。そう、はねないように」

「こわい、え、無理! こわっ」

「よし、上手いぞ! あとはこんがりいい色になるまで」

「色が変わった!」


 私がびくびくしたり、感動したりする様を見て、毎回『ぷくくっ』と、『かかっ』が楽しんでいた。

 これでも必死に頑張ってます。笑わないでー!!


「大成功だ! リリーナ」

「ほんとう!?」

「あぁ、きちんと火が通っている!」

「それ褒め言葉?」


 三人で、ぷっとふきだして大笑いしながら楽しい晩ご飯を終えた。


 明日はレース。どうなるのかな。レースに勝って、それで――。

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