友達

「晴れたー!」


 青い空! 絶好の飛行日和。


「この空、飛んだら気持ち良さそうだな」

「そうだね」


 二人でのびをしながら空を見上げる。今日は朝の迷惑なお客様はいないようだ。いたらどうしようって心配だったけど、ただただ気持ちのいい朝の空気だけが迎えてくれた。


「よし、準備するか! スタート地点に持っていって、登録確認しないとだ」

「うん」

「よろしくな、相棒」

「もちろん。頑張ろうね」


 私はにっとアルテのマネをして笑う。同じ顔でアルテも笑い返してくれた。


「あの変なヤツらがどうでてくるか、わからないのがこえーな」

「あはは」


 たしかに、今日は来てないし、あの二人はどうなってるのかな。少し気になる。

 それと、アナスタシアも。もしかして今日は会えるかもしれない。

 連絡方法を頑張って考えたけど、難しい。

 だって、通話機は購入契約する時に父親に連絡が入ってしまう可能性がっ!! 未成年の定め。こんなとこに日本ルールが何故!!

 まあ、それで次を考えたけれど、私はアナスタシアみたいに誰かにお願いするなんて出来ない。うーん。どうしたら……。


「おはよう、アルテ。リリーナ」

「おはようございます、ルミナス」

「おぅ、おはよう」

「よろしくね! ボクは応援しかできないけど」


 スライディングしながらルミナスがやってきた。どこに引っ掛かったのだろう。

 あはは、と彼は笑う。もしかして彼も腕輪をなくしてしまったのでは? と、思ってしまう見事なこけっぷりだった。


 ◇


「あれ、えっと。何で?」


 登録確認に来た場所で私が見たのは、アルベルトと、アナスタシアの二人が並んでいる姿だった。


「あれは、昨日のヤツだな。もう一人の女は昨日とは違うように見えるが」

「うん……」


 どうして、アナスタシアがアルベルトと? どうしよう。一般人なら負ける気がしないけれど、神聖力に目覚めた主人公ヒロイン。私と一緒にプレイしていたから、アナスタシアもハイエアートはかなりの腕前のはず……。


「リリーナ、どうした?」

「あ、ううん。大丈夫」


 ぎゅっと、空いてる方の手を握りしめた。


「はい、登録できております。これがあなた方の出走場所と番号、印です。御武運を」


 受付の男が、必要な物をアルテに渡していく。


「いくか」

「エリーナ!! と、そこの男!」


 想定通りに呼び止められる。呼び止めたのはアルベルト。


「いいな、僕が勝ったら、約束だぞ」


 少しだけ、手を離してアルテとアルベルトから離れる。

 二人は何か言っているけれど、私はアナスタシアに聞きたかったので、彼女のもとにむかった。


「アナスタシア……」

「――エリーナ」


 出発の時と変わらない、いつもの彼女の顔が迎える。

 いつもの、ナホの笑い方。


「どうして、ナホがアルベルトと?」

「なんだかね、アルベルト様から『キミを諦めるかわりに今度のレースを手伝って欲しい』って頼まれてしまったの。まさか、エリナちゃんがくるなんて……」


 聞かれないように、二人でこそこそと話す。


「あの人は誰?」

「あ、あのね。話せば長くなるんだけど、えーっと」

「エリナちゃん、あの人が好きなの?」

「え、あ、その」

「このレース、妹姫メイラ争奪戦レースだよね?」


 また、心にズキリと痛みが走る。わかってる。わかってるのに。


「リリーナ! いくぞ!」

「アルテ! うん」


 私はびくりとしてから、アナスタシアに手を揃えてお願いする。


「お願い! 勝たせて欲しいの。彼にこのレース勝ってもらわないと、私、腕輪が――」

「え、腕輪って、あっ!」


 アナスタシアは私の腕とアルテの腕を見てどうやら気がついたようだ。


「どうして? これって神様が――」


「リリーナ!」

「アナスタシア!」


 二人の男達が同時に叫ぶ。まだ、全然話せてないのに。


「今行くから」

「はい、アルベルト様」


 私達はお互いぺこりとお辞儀して、それぞれの相棒のもとにむかった。

 今のお願いで、アナスタシアは理解してくれたのかな。でも、腕輪がないと不幸になるって知らないし、アナスタシアも、アルベルトに諦めさせるにはレースで頑張らないとなのかな? 彼女の本命と結ばれる為に?

 考えていると、ルミナスのようにどこかにひっかかったみたい。こけるっと思ったけど、アルテがタイミングよくキャッチしてくれた。


「ありがとう」


 パッと、離れてアルテを見ると少し眉根を寄せていた。どこか、ぶつかっちゃったかな。それともアルベルトに何か言われた……?


「知り合いか?」


 アルベルトとアナスタシアを見ながら、アルテが聞いてきた。


「うん、友達……」

「そうか、友達か」


 アルテはぎゅっと手を繋ぎ、引っ張っていく。いつもより、少し強い。


「だからって、手を抜く訳にはいかないんだ」

「……そう、……そうだね」


 大事な人。アルテが言っていた言葉がまた私の心をきゅっと締め付けた。

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