ピッ
◇
「よし、それじゃあいくぞっ」
「いいよー!」
「シルフ!」
小さな風の精霊を呼び、風の盾を作る。車のフロントガラス的なイメージでいいんだよね、きっと。
「シルフ、お願い。風の盾を作ってね」
そう言うと、小さな彼はこくりと頷き、私の頭の上に乗った。
アルテがそれを確認して、操縦桿をしっかりと握って魔法核に力を込めた。
二人の魔力で、ハイエアートは浮かび上がり空へと飛び立つ。
「うわー!」
飛行機ってまだ乗ったことがない私は、その不思議な感覚に感動する。前回はそんな余裕なかったからね。息苦しくないし、しっかり盾も出来てるみたい。よかった。
「空、飛んでる!」
アルテは、少しこちらを見て何言ってるんだ? という顔をしていた。
「スゴくない? 空だよ。空!」
「いや、一昨日も飛んだだろ」
「だって、一昨日は全然景色を見る余裕なかったんだもん!」
「まあ、そうだったな」
あははと、アルテは笑っている。風の盾はきちんと出来てるらしい。アルテも余裕そうだ。
頭の上にいるから顔が見えないけど、小さな風の精霊にもお礼を言う。
「ありがとう、シルフ」
どんな顔をしてるのかな? 見たいけど見えない。またどや顔でもしてるのかな?
「飛ばすぞ!」
「あいあいさー」
私は、この前出来なかったフルスロットルで魔力を加えた。
ギュゥーンとスピードがあがるけれど、今日は全然大丈夫そう。
むしろこれ、楽しいかも!
流れていく景色、鳥、ハイエアート。
ハイエアート!?
「あっちでも誰か練習してるみたいだな」
「あ、うん。そうみたいだね」
あのなんだか見覚えのあるハイエアートって……、まさか……ね?
「ぶつかると危ないし離れよう」
「うん」
そう言って舵をきったのに、何故かむこうがこちらに寄せてきた。危ないですよー!!
紺色の機体にがっちり前面ガードのついたハイエアート。そのボディには見覚えのある紋章が刻まれている。
「不思議な機体だな! なのになかなかのスピードと見える」
あぁ、その声はやっぱり――。お久しぶりです。アルベルト様。っていうか、後ろはいったいどなた様?
私は帽子とゴーグルを深くかぶりなおす。この距離だし、帽子とゴーグル被ってるしばれないとは思うけれど――。出来れば会いたくない相手だ。アナスタシアが他の人の攻略を始めて、もしかしたら復縁なんて迫られたり……したら困る――。
「ありがとう! そちらも格好いい機体ですね」
アルテが大声で答える。さすがにスルーはしにくいよね。むこうも帽子とゴーグルで誰かはわからないだろうけれど、国の紋章がはいった機体に乗ってる人だし。
「ふふ、そうだろう! 次のレースの参加者かい?」
「ええ!」
「メイラは可愛いから、参加者が多くなるだろうなぁ。お互い、いいレースにしよう! では」
そう言って、ピッと手でチョキを作りかっこつけてからアルベルトのハイエアートは遠ざかっていった。
何がしたかったんだろう……、あの人。
「何だ、さっきのは」
「さー、何だったんでしょうねー」
私はすっとぼけながら、はやく戻ろうとそっと力をこめていた。
そうだ、レース……出るなら攻略キャラだって出てくるよね。
アナスタシアは、誰と出るつもりなのかな?
アルベルトと一緒ではなかったみたいだけど――。
「まあ、戻るか」
「ですね」
思い出し笑いしないうちにどうか、お願いします。
ピッって、何ですか。あれ!
◇
「む?」
「ん?」
「いないな――」
「いませんね」
戻った場所に、ルミナスがいなかったのだ。
おーいと呼んでも、返事はない。
「便所か?」
「言い方!」
「間違ってないだろ!」
「そうだけど! 一応女の子の前ですよ」
「あぁ、悪い悪い。ここで待っててくれ。探してくる。すぐ戻るから」
私はこくんと頷いて、手を離した。
「不幸がくる前にお願いします!」
「わかってる、おーい」
ここから、どこかに行くことなんてあるのかな?
私は草の上に座ろうとした。そして、手のひらを草で切った。痛い。
「助けて、ウィンディーネ」
手のひらの切り傷(小)に、精霊の力を借りる私であった。だって、ヒリヒリするし!
アルテはすぐに戻ってきて首をふっていた。いなかったのかな。
「とりあえず、戻ろう。家に戻ってるかも」
「そっか」
その時、先程の光景を思い出すのと同時に胸がざわりと騒いだ。
まさかね……。
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