どこが好きなのかなぁ

 ◆


「どこにいってしまったんだ――」


 探しているが見つからない彼女。水の妖精のような青色の長い髪・・・はそうそういないと思うのだが見つからない。なぜ見つからない?


「殿下……アナスタシア様は――」

「言うなっ!」


 目の前でいちゃつかれてしまったのだ。今度は宮廷料理人のザイラ。いや、あれはきっと料理の仕方を習って、僕のために手料理を――――。


 マルクスとシロナが心配そうな目でこちらを見てくる。

 僕はいったいどうすればいいんだ……。


 カタリと椅子に座り、手で顔を押さえた。


「このままでは……レースが……。シロナ、クロネを呼べ。本番までの練習なら十分だろう。あとは、――――」


 ◇


「今日は時間がまだあるな」

「ですね」

「よし、増えたことだし、精霊魔法の練習をするか」


 という訳で、私達は近くの川原まで歩いてきた。ハイエアートの練習で使った場所ね。


「まあ、難しくない。契約さえ終えてしまえばあとは呼ぶだけだからな」

「ふむふむ」

「ほら、やってみろ」


 そう、促され私はこくりと頷いた。

 私は息を吸って、集中する。川を目にいれて水を手に取るイメージをした。


「ウィンディーネ」


 私の顔をした水の精霊ウィンディーネが姿を見せ、川に手を向けすくい上げる動作をする。すると、川から水がまるでシャボン玉のように丸くふくらみ、川との接点がぷつんと外れ空中に浮かび上がった。


「おぉ! すごーい」


 私が感動でぴょんぴょん跳ねていると、アルテは少し考えるように口に手を当てていた。


「次はシルフで風を起こせるか?」

「うん、やってみる」


 ウィンディーネに作ってもらった水の球を川に戻し、次は風の精霊シルフを呼ぶ。


「シルフ」


 アルテ顔のシルフがポンッと姿を見せた。じっと、その顔を見て私は今日抱き抱えられながら移動したことを思い出した。


 するとふわりと、持ち上げられる。

 え、何に?


「わ、わ、わーーー!?」

「おい、何を想像したんだ」


 急に空中に浮かび私は慌てる。手を繋いでるアルテももちろん驚いている。けれど、ぎゅっと手は握ってくれていたから彼は地上に立っていて、私は中途半端に空を飛んでいる格好だ。


「おろしてーーー!!」


 そう言うと、ひゅうと風が足元から去り、私は地上に戻ることが出来た。地上っていうか、アルテの上に!

 急に降ってきた私を受け止めて、彼はしりもちをついていた。


「ご、ごめんね」


 パッと顔をあげ、すぐに起き上がろうとしたが、アルテがぎゅっと背中に手をまわして動けない。


「あの――」

「ぷっ、あはははは――」


 盛大に笑われた。


「いや、すごいな、リリーナ。ここまで最初から出来るとは。これなら、風の盾もすぐ出来るだろう」


 あはははと笑い続ける彼の手は、なかなか私の背中から離れなくて、私は顔を赤くするのと、「?」を頭に浮かべることしか出来なかった。


「あの、手を――」

「あ、あぁ、すまない」


 そう言って、パッと手を離してもらえ、私は急いで立ち上がる。


「こちらこそ、ごめんなさい。受け止めてくれてありがとう」


 何だか、こちらを伺っている小さなアルテ、もといシルフがどや顔で空中仁王立ちしていた。


(うん、すごい、すごい。すごいからちょっと消えてていいよー)


 私がそう思っていると、ふっと姿を消していた。


「少しシルフの方が制御が難しそうか?」

「うーん、どうだろう」


 私は考えた。そう、どちらも考えたことをそのまま再現してくれた。だからきっと――。


「大丈夫だと思う」

「そうか。じゃあ、明日は盾を出しながら飛べるといいな」

「そうだね」


 きゅっと手を繋ぎ直し、私達は家路についた。

 空がオレンジ色に染まってとてもきれいだった。これならきっと明日も晴れるかな。


 ◇


 晩御飯は、スープとオムライスだった。

 もちろん、とても美味しかった。はぁ、お嫁さんに欲しい。って、アルテは男の人だし! お嫁さんじゃなかった!

 そして、妹姫様が好きだったんだ。

 アルテは…………、妹姫様のどこが好きなのかなぁ。

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