思い出し笑い
◆
「何だと……エリーナが?」
「はい、父親が吐きました。あの日から行方不明だと」
フラフラと足がよろけたので机に手を掛ける。
彼女の家に向かった日は結局会えずに終わり、次の日確かめさせに行かせた結果がこれだ――。
「そんな、僕のせいで……」
僕は間違ってしまったのか? こんなにも彼女が傷付いてしまうなんて。
「アナスタシア様は、今度は筆頭魔術師のグリード様と空中を一緒に飛ぶ姿が――」
どうして、二人とも僕から離れてしまうんだ? 僕は二人とも愛しているのに!
「探せ、エリーナを! 絶対に見つけるんだ!」
きっと、泣いているに違いない。謝ろう。そして探すんだ。三人で幸せになる方法を!
◇
今日も美味しそうですね!
豪快なお肉のステーキに彩り野菜の炒め物とソースが繊細に盛り付けられている。スープはコーンのシンプルなのかな?
違う! 何かが溶け込んでいる! 何がこの深みを出してるんだ!?
「おいひぃぃぃー」
ほっぺたが落ちないように私は手で頬を押さえて幸せを頬張る。
やっぱり、プロですよね? もう絶対にプロだわ。
そう思いながら、食べていると彼は嬉しそうに私を眺めていた。
あの、いらないならそのお肉とスープ、くれないかなぁ?
なんて言わないけど、思っちゃうくらい美味しかった。
「そんだけ、美味そうに食ってくれるとホント作りがいがあるな」
ふわりと笑って、アルテも食べはじめた。
◇
朝がきたー! 今日はトレジャーハントデイ!
うきうきと私は準備を始める。
着替えの途中でボタンが一個飛んだ不幸はあったけど。もう一個上から着るから問題なんてない! そう、ちょっと不幸だっただけだ。決して、けっしてーー!!
「今日はどんなおったから~に出会えるっかなぁ(はぁと)」
なんて気持ちよく歌っていると、アルテに笑われた。
呆れながら、「どんだけ、好きなんだよ」と言うけれど彼は忘れずに手を繋いでくれる。ふと、何かを思い出したのかアルテが思い出し笑いをしていた。
「まあ、知り合いにもお前みたいなヤツがいたなぁ」
ん? 私のライバルですか? そういうのにこだわる人が他にもこのゲームにはいるのか。
そんな話をしていると、入り口についた。
「今日のは、俺は相性が悪そうだな」
「そうですねぇ」
入り口からすでに水が噴き出している。
今日は水のダンジョンかな……。でも、水のエリアならもしかしたら出会えるかもしれない! まだ見つけていない「虹の鱗」に!
私達は上から水が滴り落ちてくるアーチをくぐり中に潜入した。
◇
「あっはっは、急に役立たずだね!」
「うるさい、運んでやるからお前が何とかしろ!」
今日のボスは水竜みたい。竜というか、魚に近いかな? まあ、おっきな魚に小さな腕や長い尾がある。
名前の通りに水魔法を得意とする竜さんで水の膜が常にはられている。つまり、アルテのサラマンデルの出番はない。
しかも水の膜で、剣の威力も落ちる。
たしか弱点は、雷属性だよね。
なら、全然余裕だ。だって、私の得意魔法だもの!
走る彼に抱えられながら、私は水竜の額に狙いを定める。
「いっけー! サンダー!」
ピシャッっと青紫の光が走る。ピキピキピキと裂けるような音がして、どんと水竜は横に倒れた。
え、ものすごい魔法が使えるじゃないかって? これはこの世界の決まりなんだけどね。悪意を持って魔法を使ったりすると神様が使えなくしちゃうらしいの。だから、使い時はしっかり見極める必要があるの。悪いことには使えない。だから魔法って便利なようで不便なのよね。
「今日もお疲れ様でしたっと!」
「良かったな。それじゃあ宝の選別に」
ぽんと降ろされたので、私はルンルンと宝物の場所へと行く。
「おい、手は?」
「あ、そうだった」
くるりと振り返ろうとした時、床の水気ですべって私は盛大にすっころんだ。
「いったぁぁ」
不幸だ……。足を
急いで私は服を掴みよせる。
「大丈夫か?」
心配そうに手を差しのべてくれるが、両手が離せません。
「どうしたって……あー」
気がついたのか、アルテは目をそらす。なんだか少し赤くないですか?
見ました? 見ましたか?
もー、もっと強い鎧とかにするべきかな? でも、重いよね。なんて考えていると、アルテがしゃがんで背中を見せた。
「ほらよ」
これは、背中に乗れってことですか?
「はやくしろよ。飯の時間がおそくなるぞ」
そう言って待っているので、私はお願いすることにした。
「すみません、お願いします」
おっきな背中に乗って、首に腕を回す。おんぶなんて、いったいいつぶりなのかな。
「落ちるなよ」
よっと言ってから、アルテは立ち上がった。背中がおっきくてあったかくて、それといつもより視界が高くて、なんだか不思議な感じだ。
「怪我と足は、ルミナスに治してもらおう」
「うん」
ぴったりとくっつくと、自分じゃない、
「あーーーー!! 虹の鱗に人魚の宝石! 一気に二個も」
ダブル未発見に私は嬉しくて叫んでしまう。
「良かったな」
後ろから見る彼の笑った横顔はいつもより近くて、なんだかドキドキしてしまった。
ダメダメ、アルテは妹姫様の事が好きなんだから――。
私が頭をぷるぷると振ると、アルテは「どうした?」と、また心配してくれた。
「大丈夫だよ。戻るね! エスケープ」
そうだ、私が欲しいものは宝物。恋なんかじゃない。でも――。
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