契約と初めて
ルミナスは今、なんていいましたか?
「私が? 精霊と?」
「はい」
えっと、精霊魔法って隣の国の大切な魔法じゃなかったっけ?
ほいほい、他国の人が使えるものだっけ? 設定ってどうなってたっけー!? 誰か説明書持ってきてー!
私が止まっているから、目の前でアルテがおーいと手を振っている。
「すみません、混乱しますよね。けれど、アルテがサラマンデルしか使役できないもので」
「悪かったな、不器用で」
少しムスッとしながらアルテは手を引っ込める。
「リリーナは、まだ誰とも契約していませんし、アルテの相方ですからお詫びとお礼を兼ねて契約譲渡をしたいのですが」
「そんな、お詫びだなんて――」
「リリーナ、もらってくれ。ハイエアートにシルフのシールドをはるためだ」
シールドって、ルミナスがさっき言ってたのかな?
「うーん、必要なものなら、仕方がないですね。ルミナス、お願いします」
「うん、ありがとう」
と、いう流れから精霊譲渡の契約をすることになったのだけど……。
「これって、必要な作業なんですか?」
「あ、すみません。もう少しだけ待ってください」
私の右手の甲にルミナスが指で紋を描いている。
「このインクは契約が終われば体に吸収されますが、無害なので心配しないでください」
「はい」
今、すごくくすぐったいんですけどね! そこが気になってるんですけどね!
黄色のインクでキレイな模様が描かれていく。
彼の手で私の手を支えつつ、じーっと手を見つめられながら描いているから、すごく気恥ずかしい。
「よし、出来ました」
彼がそっと手を離して、やっとこの気恥ずかしさから解放されると、ホッと胸を撫で下ろす。
「それじゃあ、ボクの使っていた子だけど、とってもいい子だから大事にしてあげてね」
そう言って、ルミナスは何かを呟くとふわりと小さな透明の羽がついた女の子が現れた。か、可愛い!
「シルフ、ボクからこの子に代わってもらっていいかな?」
そう聞くと、ぷるぷると顔を横に振っていた。
あれ、もしかして嫌われた?
私がショックを受けていると、アルテが頭をガシガシと撫でてきた。
「ルミナスが好きすぎるだけだろ。おい、新しいヤツでいいだろ」
「うーん、そうだね。この子の方が気性がわかってるからいいかと思ったけど。すみません、リリーナ。新しい精霊と契約を結んでもらいますね」
「はい」
カタリと立ち上がって、ルミナスは棚をあさりだした。
そんなところに、精霊さんがいるんですか!?
戻ってきた彼の手の中には黄色の宝石が一粒あった。
「これが精霊石です。ここから、あなたの魔力に反応して新しい子が産まれます」
「どうやってですか?」
「この石に手を置いて、風をイメージして下さい。そうすればあとの固定補助はボクがします」
「風ですか――」
私は風、風、と考えてみた。そういえばさっきの練習の時、すごい風だったなー。アルテもすごい顔をしていたし、と考えた時だった。精霊石がきらきらと光りだした。
その光を確認したルミナスはまた何かを呟く。
ポンッ
ルミナスの手から石が消えて、その上にさっきの精霊さんみたいなサイズの羽を持ったアルテが現れた。
あれ?
「おい、何をイメージしてやがる!!」
「アルテそっくりだね」
「あのぉ、やり直しとかは……」
「出来ないことはないけど、この子は捨てられることに――」
何ですと!! 産み出した責任感が!!
小さな羽の生えたアルテは不安そうにこちらを見ている。
いくら、アルテそっくりでも、捨てられるなんて、そんな、かわいそうよね……。
「この子で大丈夫です」
「おい!?」
プククとルミナスが笑う。
「人のイメージがはいるとこんな現象が起こるんだね。注意事項に書いておかないと……」
「えっと、まさか」
「こんな事が起こったのはこれが初めてです」
「わーーーーー!?」
初めてって、待って待って、待ってぇぇ!
「違いますからね!? さっきの練習中にすごい風だったなーって思って、そういえばアルテがすごい顔をしてたなーって考えちゃって! 決して、――決してっ!!」
「わかった、わかった!」
大きなアルテは、頭をガシガシしながらため息をついている。
「産まれたばかりのシルフ、ご主人様のリリーナですよ。よかったですね」
ルミナスが小さなアルテにそう言うと、ふわりと私の横に飛んできてペコリとお辞儀した。うん、可愛い。小さいと可愛く見えるのは、ミニチュアが可愛いって思うのと同じ心理かな?
「シルフと言えば答えてくれますから、では契約を」
ルミナスが小さく何かを呟くと手の甲に描いた紋が一度光り、消えた。
「常にそばにいますから、呼べば風の精霊魔法が使えますよ。使い方はまた次の練習の時にでも」
「俺が教えておく」
「そうですか、ではボクは今日はこれで」
ニコニコと笑いながらルミナスは、片付けをして帰っていった。
「はぁ、まったく。変なもん作りやがって……」
「ごめんなさい」
怒るよね、自分そっくりな精霊を、私が使役するなんて。
しゅんとしていると、アルテはまた頭をかきながら困ったように言った。
「シルフだぞ。間違ってもアルテと呼ぶなよ」
それだけ言って、彼はゆっくりと手を引いてキッチンへと向かう。
「うん」
私は引かれるまま、彼の後についていった。
――明日は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます