空と風と

「とても近いですね」

「近いよ。だってくっつくようにって言われてるからね」


 操縦席そうじゅうせきはもう、ほんとに座席の間の空間がなく、ぴったんことくっつく形だった。


「メイン操縦はアルテでいいんだよね?」

「おぅ!」

「後ろのリリーナの場所には、補助操縦桿と魔法核マジックコアに魔力を注ぐ回路への接続部を置いてるよ。あと、座席が近い方が足で蹴ったり出来るよ」


 そう言いながら、ルミナスは笑っていた。蹴る前提にされてます? そんなことするわけ――。

 まあそれはさておき、実は私メイン操縦も出来るんだけどね。使い方知ってるし。

 ハイエアートは、操縦者の魔力で動く魔法核、まあ簡単に言えばエンジンね、それで空を飛ぶの。男の人の魔力がプラス、女の人の魔力がマイナスって感じで、そう、ぶっちゃけ電池なのよ。私達。


「それにしても、リリーナ。魔法核の扱いがお上手ですね」

「え、えへ」


 練習用に町の外、川沿いの開けた場所に来ている。

 ここまで持ってくるのに、軽く操作をして飛んできたのだけど、すでにバレかかっているかもしれない……。

 私、ハイエアートもやり込み度、かなりのものだったんです!

 だって、だって、ハイエアートレースの賞品に超高級トレジャーハント用品があったんですものー! ものぉー! ものーーー!

 しかも非売品でレース専用の景品。反則よね?

 回数こなせばゲットできる仕様だったから、回数こなしたのよ!

 だからもしゲームステータスがそのままなら、たぶんほぼカンスト。一般人相手なら負ける気がしないわ!


「もしかしたらすごい人をスカウトしてきたのかもね、アルテ」

「へへっ、よかったろ」


 いや、よくないです。返してくださいよ? 私の幸運の腕輪。

 口には出さないけど、無言の圧力をかけてみる。アルテはどうせ気がつかないだろうけど。


「優勝して、賞品をいただかないとですね」

「おぅ、まかせとけ!」


 二人は仲良さげに笑い合う。

 熱い友情ってヤツですね! うん、うん。ルミナスも彼のラブを応援しているんですね。応援されて幸せ者ですね、アルテは。


「それで、さっきから俺はなんでつねられてるんだ?」

「あら、気付いていたんですか。てっきり筋肉が分厚すぎて気付いていないとばかり」

「いや、気が付くだろ。で、なんでだ?」


 私はつねっていた手を離して、アルテに告げる。


「時間は有限です。練習のあとは私の番なんだから、はやく始めましょう」


 そう、それだけだ。練習ばかりに時間を割けないということは、彼の邪魔になってしまうということ。応援しているのに、邪魔になるような事をしたくない。けれど、腕輪のせいで、彼と私は不自由で。申し訳なさが少し頭をよぎった。

 冒険ばかりしていたから、負けてしまったなんてことになったら、悪いもんね。


「そうだな、そんじゃ始めようか」


 アルテが操縦桿を握る。彼の魔法核への接続部は操縦桿についてる、赤い宝石だ。

 私も左手にある青色の宝石に触れると、ハイエアートは空に浮かび上がる。


「すげーな、イメージ通りに動く。リリーナ、ハイエアートの天才ライダーなんじゃないか?」

「は、はは」


 乾いた笑いをしながら、私は集中する。

 本気モードでどれだけ出来るか、しっかり把握しとかなきゃ。

 いざ、レースで駄目でしたー! じゃ、悪いもんね。


 ――その日、私達は驚きと、ヤバさに真っ白に燃え尽きてしまった。

 本気はヤバい。50パーセント位であれ。うん、本気は駄目だ。

 ゲームだと全然気にならなかったけど、すごくすごーくはやいと、息が出来ない。何あれ。あ、ジェットコースター! あれだ、あれのすごいヤツって感じ!


「これは……。前面をもうちょっと大きく――は、機体のバランスが……。シルフで全面ガードできる風の盾を作った方が良さそうかな? うーん」


 ルミナスが機体を見つめながら、何か呟き考えていた。

 実際、レースの皆はどんなのに乗ってたかなぁ。

 トレジャーハント以外はうろ覚えすぎて、役立ちそうにないや。こんなことになるなら、もうちょっとちゃんと覚えといたのになぁ。


「リリーナさん、シルフと契約してもらえませんか?」

「ふぇ?」


 突然、ルミナスにそう言われ私はまた変な声をだしてしまった。

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