責任とってくださいね?

「本当にいいのか?」

「責任とってくれるんでしょ?」


 金色の瞳が確かめるようにじっと見つめてくる。彼の瞳には私の姿が見えた。


「わかった。上手く出来なくても怒るなよ」

「少しくらいなら下手でもいいですよ」


 承諾しょうだくの返事を返すとアルテはゆっくりと動いた。

 その手には、髪を切るハサミが光る。


 シャキーン

 ハラハラハラ


 焦げてちぢれた部分だけのつもりだった。そう、そのはずだった。


「アルテ」

「なんだ」

「責任とって下さいね」

「いや、ちゃんと聞いただろ!」


 肩口に切り揃えられたブルーの髪。私の長い髪は肩上ボブへと変わってしまった…………。

 まあ、キレイに切り揃えられてはいるけれど。


「よく見たらあちこち焦げてたんだよ! 全部バラバラに切ってたらちぐはぐになるぞ」

「……わかりました。ありがとうございます」


 下手にザンバラ髪にされるよりはずっといいか。軽くて冒険には良さそうだしね。それにしても、この人器用だな。精霊魔法が出来て剣が出来て料理が出来て、髪のカットまで。あと幾つくらい出来ることがあるんだろう。


「ついでに俺も前髪切っとくか」


 そう言って、もさ前髪を整えていた。

 あれ、かなりすっきりしたよ。あ、うん。そっちがいいよ。

 口には出さなかったけど、アルテのキレイな金色の瞳がしっかり見えるようになった。


「よし、じゃあ始めるか」

「ハイエアートの練習ですね」

「おう!」


 今度はアルテがホクホク笑顔だ。ハイエアートが楽しいのか、妹姫様の事を想っての顔なのか。昨日の私はきっとこんな顔をしていたんだろうな。

 そういえば――。


「このハイエアートはアルテが作ったんですか?」


 ん? とこちらを見た彼は、「あぁ」と一人納得した顔をして答えた。


「コイツを作ったのは別人だ。連絡しといたから、そろそろ来るはずなんだが……」


 ガシャーーーーーン


 と、すごい音が響いた。


「お、来たか」

「えっと、なんだかすごい音がしましたが?」

「あぁ、アイツはドジをしょって歩いているようなヤツなんだ」

「ドジ――?」


 ククッと笑ってからアルテは入り口に向かう。私は手を引かれ一緒に外に出た。


「あーぁ、ハデにやったな。拾うの大変だぞ」


 そう、彼に声をかけられた人は金の瞳に丸い眼鏡をかけた、赤い髪の大きな男の人だった。大きさは、アルテと変わらない位かな? ほとんど一緒に見える。


「ゴメンね、少し慌ててしまって」


 アルテの荒っぽい雰囲気とは逆に落ち着いた雰囲気のふわりとする声で彼は答える。


「手伝います!」


 そう言って私は手をパッと離して手伝いを始めようと近付いた。


「おい、馬鹿!」


 そうだった――、忘れていた。私はアルテと手を離すと不幸が襲ってくるんだ。


 ビターーーン


 落ちていた何かを踏んづけて、私は盛大にスッ転んだ。

 アルテは、あちゃーと言いながら顔を片手で押さえていた。


 ◇


「うぅ、不幸……」


 落とした物を全部拾い終わったあと、彼と私とアルテは、家の中に入った。


「すみません、ボクが道具を落とさなければ――」

「ああぁぁ、違います。アナタのせいじゃないです!えーっと」

「ボクはルミナス。よろしくお願いします。お嬢さん」


 そう言って、彼は優しく笑い、私の怪我した場所の上に手をかざした。


「ウィンディーネ、怪我を癒してくれ」


 小さな青い人魚の水の精霊が、怪我の上を撫でていくと、キレイに傷が消えた。


「すごい、精霊魔法ですね!」


 褒めると、彼は照れたように笑っていた。

 私の横で、少しムッとした人がいたのはたぶん気のせいだろう。


「俺も精霊魔法が使えるぞ」


 気のせいじゃなかったみたい……。何を張り合ってるんだか。


「まあ、コイツがこのハイエアートを作ったヤツだ」

「ボクは設計で、組み立ては半々じゃないか」

「俺は、切ってくっつけただけだ」


 二人は笑いながら、ハイエアートの機体を撫でている。

 あー、男の子ってこういうの好きな人多いよねー。

 うんうん、と頷いているとルミナスが私の手を見て思い出したように聞いてきた。


「お嬢さんが、一緒に乗る相方なの?」

「そう、コイツ。リリーナっていうんだけどよ。まあ昨日連絡した通り色々あってな」


 連絡とは、一応この世界ではスマホほど便利な道具はないけれど、魔法の力を使った電話みたいな通話機があるにはある。でもこれは対の道具間しか使えないし、けっこうお高いので一般人は持っていない。

 まあ、お姫様争奪戦レースに参加するには、それなりのお金か身分が必要だから、彼らは隣国のそれなりの人だとは思っていたけれど。


「少し操縦席をいじらないとだね。離れちゃダメなんでしょ?」

「あぁ」

「女性の相方探しなんて、難航すると思っていたのにすぐ見つかってラッキーだったね」


 そう、ハイエアートは男女ペアで乗って始めて動く乗り物だ。そしてラッキーなのは私の腕輪のせいだ!


「この国の規格だと、魔法核マジックコアの相性はやっぱり現地ここの人が有利だからね。こんなヤツだけどよろしくお願いします。リリーナさん」

「リリーナでいいですよ」

「おい」

「なんですか?」

「…………」


 私達のやり取りを見て、プククと手で押さえながらルミナスは笑っていた。

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